何度目かの食事後、終電前には解放してくれる彼は紳士だ。
遊び慣れた女友達が言うにはただのヘタレだと言うけれど、回数を重ねれば重ねるほど私にとっては“いい男”に見えてしまう。
引き止めたくてコートの裾を引っ張れば、苦笑いで少しだけ困った彼が控えめに腰を引き寄せた。
キスされそうな所で目をぎゅっと瞑れば、リップ音がしたのはおでこだった。
「そんな警戒しなくても取って食うわけじゃないよ」
そう言って可笑しそうに笑う彼は、慣れた手つきでタクシーを止めた。
「じゃぁ、ここで。気をつけて帰んなよ」
ご丁寧に1万円札まで握らされた。
いつもならここでサヨナラのはずだった。
一瞬の隙を着いて彼の腕を引っ張った。
驚いた彼がバランスを崩してタクシーに乗り込む形になれば、せっかちなドライバーがドアを閉めた。
家路へと車は走り出し、無言の車内で俯く私と窓枠に頬杖をつく彼。
怒っているだろうか…
この後他の女性と予定でも入ってただろうか…
自分の行動に後悔し始めれば、みるみるうちに握りしめた1万円札がくしゃくしゃになってしまった。
私の自宅の前でタクシーが止まれば、先に出た私に続いて彼も車を降りた。
俯いた私の肩に彼の手が回ると、自然と歩き出した。
部屋の前について、鞄の中を震える手がキーケースをまさぐる。
なかなか見つからない私に彼が微笑んだ。
掴んだキーケースは焦る私の手元から零れると、床に落ちて静かなマンションの廊下に響いた。
「今なら引き返せるけど、どうする?」
地面に落ちたキーケースを彼が握って、鍵穴に差し込んだ。
開けるか開けないかを私に託すなんて、ずるい人。
そう思いつつも、刺さったままの鍵を捻れば解錠の音と共にキスされた。
軽いリップ音と共に離れそうになれば、彼が後頭部に手を回してそれを阻止した。
流れ込むように入った玄関先は、もわっとして暖かい。
未だ繋がったままの唇の周りには、お互いの涎がベトリと付いている。
「…エアコンつけっぱなし?意外とおっちょのちょいなんだね」
「ううん、今夜は貴方を連れて帰ろうって決めてたから」
一瞬、驚いて目を大きくした後、ニヤリと口角を上げた彼が後ろ手に鍵を閉めた。
「そんな大胆な所も意外だったな」
「、いやだった、?」
「ん。たまらなく興奮するよ」