どうせなら俺が

「圧紘くんは、なんで大事なナマエチャンをここに連れてきたのですか?わざわざヴィランだと言わなくても」

「ん?あぁ、気になっちゃった?」

「はい。だってナマエチャンはどう見ても“普通”ですから」

そう言って圧紘くんが見つめる先には、ニコニコと笑って仁くんと秀一くんとお話する彼女の姿。
仮面をしているままでも、普段から彼女を気にかけているのは一目瞭然だ。

「ナマエってさ、人を疑うってことを知らないんだよな」

「…?そうですね」

「だから今、ここで俺が手放したとしても他の悪い男に捕まっちまう訳よ」

「……。」

「どうせいつかは誰かに不幸にされるぐらいなら、それは俺がいい。これから感じる喜怒哀楽も…痛いとか気持ちいいとかも全部、俺が与えたい。一生俺を刻みたいんだよねぇ〜」

一人分の椅子を置いた距離からでも、何かゾクリと感じる物が伝わってくる。
口調はいつも通りの彼なのに、あれほど見慣れた仮面が何故か少しだけ不気味に感じた。

「嫌われてもいいんだ、酷い男だと罵られてもいい。それに気付く頃には俺から離れらんなくなってるから……
だからゴメンな、トガちゃんにはあげられない」

こちらに気づいて手を振る彼女に、控えめに手を挙げて答える圧紘くん。
確信を突かれた気がして、周りの音が一瞬だけピタリと止まった。
再び流れ出した時間に、ゆっくりと息を吐いた。

「圧紘くんて、私たちの中では割と普通寄りなのかと思ってましたがしっかりイカれてるんですね」

「……そもそも愛ってイカレてるもんだよ、トガちゃん」

カウンターに置かれたハットを手に取り、立ち上がろうとする圧紘くんに最後の質問。

「……今の圧紘くんってどっちですか?私たちと話してる時と、ナマエチャンと話してる時。違いますよね?」

「はは、こりゃまいったな。
……さて、本当の俺はどっちでしょう……?なーんちゃって、トガちゃんは鋭いから困るわ」

いつもの様におちゃらけて笑う姿は、いつもの圧紘くんだ。
席を立つと、それに気付いたあの子が側まで駆け寄った。
身長差のある彼を見上げて懐く姿は、まるで親子みたいだ。
髪を撫でた手がスルスルと腰を撫で、背筋を伸ばした彼女の姿をじっと見つめればあの子が照れたように俯いた。

「じゃぁ俺たちはそろそろおいとまするね」

「トガちゃん、またね」

何も知らない彼女に笑顔を手を振った。