帰宅すると玄関には彼のブーツが脱ぎ捨てられていた。
リビングのドアを開ければ、ハットスタンドには帽子。
それと適当に掛けられたロングコートは、フローリングにくっついている。
ソファにはループタイが放り投げられていて、その先の床には黒のベストにオレンジ色のカッターシャツ。
彼が帰宅してから歩いたであろう道には、抜け殻が点々と落ちている。
順番に手に取り左手に掛けていけば、寝室の入口に引っかかったスラックスを手に取った。
反動でゆっくり開いた隙間から見えたのは、ベッドに横たわる彼の姿だった。
パンツ一丁に靴下は片方だけ。
最後の力を振り絞った所で力尽きたようだ。
「ただいま」
一応彼には声をかけてみるが、帰ってきたのはスヤスヤと寝息のみ。
まずはコートをハンガーに掛け、その後にスラックス。
ポッケの中をまさぐって、彼のお得意の球体を取り出した。
「すぐ使うものとそうじゃないの、分けておくね」
一応プライベートはお互いあるんだし、と彼の同意を求める。
「……ん゙ー・・・」
辛うじて聞こえたらしい私の声に、のんびりと帰ってきた返事。
球体を照明にかざして覗き込んで中を確認する。
これはお気に入りのマスク、こっちは手袋。
更にこっちは女子高生の制服に、誰かの覆面。
おっと危ない、これは壊れた車と瓦礫の破片。
手の平に置いた球体をギュッと握って開けば、ポンっと音と共に中身が飛び出した。
そう、私の個性は【解除】。
仕組みが分かっていれば、大体のものは解除できるという個性だ。
やろうと思えば金庫だって、時限爆弾だって処理できるがそこまでやらないのは興味が無いからだ。
一通り解除して行けば、何時でも彼が起きて出られるようにとテーブルの上に広げておく。
こんな母親みたいな世話、私以外出来るわけない。
ストックを入れるポッケの場所だって知っているし、普段紳士を装う彼が本当はだらしない所も、私だけが知っている。
眉間に皺を寄せて、お疲れ様気味に寝る彼の足元に座れば脱ぎ掛けの靴下を回収する。
くすぐったかったのかピクリと反応した彼が、掠れた声で喋った。
「ぁ……わる、い……眠……くて」
「ん、わかってる。いいよ、寝てて」
「ありが、とー・・・」
靴下とカッターシャツを持って立ち上がれば、ポロリと何かが落ちた。
珍しい。
いつもならカッターシャツの胸ポッケには何も入れないはずなのに。
「?これもいいの?」
「…んぁ…… ちょ、!!タンマ!!」
中身は特に確認せず、ギュッと手のひらに握った所で彼が飛び起きた。
びっくりした拍子に解除されてしまったそれが、手のひらで転がった。
小ぶりの可愛らしいケースは、言うまでもなく私宛てのものだろう。
照れくさそうに顔を背けた彼の耳は真っ赤だった。