真っ黒な髪の毛に、スッピンに見間違えるほどの薄いメイク。
スカートの丈だって長くなっているし、ワイシャツのボタンはしっかり閉まっている。
何処にしまったか分からないと言っていたはずのブレザーは真新しいままだ。
「へぇー、可愛いじゃん」
「えー、どこが。地味すぎヤダ」
不服そうな彼女は真っ黒に染まる毛先を見つめる。
「この間まで俺の専業主婦になるって言ってなかった?」
茶化すように言えば、んー…と唸ったあと黙ってしまった。
「どうした?なんかあった?」
いつものマシンガントークはないし、ナチュラルメイクのせいか強みがない。
可愛いのは可愛いんだけど。
「…あつひろさんみたいに色んなこと勉強しなきゃって…知らなきゃ行けないこともやらなきゃ行けないこともたくさんあるんだって」
なるほど。
本来ならこの子達学生は、就活やらなんやらで忙しい時期なんだもんな。
段々と涙目になって行く彼女は弱々しく俯いた。
ここ数ヶ月会うことも、連絡することさえなかなか出来なかった俺。
きっとその間、これから先の未来を色々と考え込んでしまったのだろう。
まだ若い彼女だ。
このままでいいのか、俺でいいのかって自問自答した結果。
俺といることを選び、尚且つ今自分に出来ることは周りよりも早く大人になることだと思ったのだろう。
頭がいい子だ、きっともっと色々考えてるに違いない。
今にも泣き出しそうな彼女を持ち上げて膝の上に座らせる。
ポロポロとゆっくりこぼれ出した涙をひとつずつ掬ってやる。
「俺はどこにもいかねぇよ?」
覗き込んでそういえば、濡れた瞳がやっと俺を捉える。
「…ほんと?」
「あぁ、本当。だからさ、焦んなくていいって、そのままで」
「うん…」
「俺が帰ってきたらエプロンして、おかえり〜って言ってくれるド定番とか俺好きよ」
「…肉じゃがとか?カレーとか?」
「そうそう。野菜ごろっごろのでかいヤツがいいわ」
「甘口?辛口?」
「もちろん辛口」
「スープは?」
「スープ…ってよりも、味噌汁がいいわ。大根のやつ」
「私も。オソロじゃん」
やっといつもの調子に戻った君が笑うから、つられて俺も笑った。