とある家族のお話2

「あれ?お前らだけ?」

待ち合わせの時間より、少し遅れて合流した俺を待っていたのは、荼毘とスピナーだった。

「遅せぇよ」

空になったグラスの氷がカランと音を立てた。

「いやぁ悪かったね、仕事が立て込んでてさ。あ、俺ビール。荼毘は?」

「同じやつ」

店員からおしぼりを受け取れば、改めて彼らの顔を見た。
久しぶりの再会に、相変わらずの彼らも元気そうだ。

「それで?なんでこれだけ?」

「死柄木は先生と仕事。トガも今こっちに居ねぇんだと」

「へぇ。トゥワイスは?」

「そのトガを追っかけてるらしい」

「ははは!トゥワイスらしいねぇ」

吹き出して大笑いすれば、スっと扉が開いて俺の酒が届いた。

「じゃぁま、久しぶりってことで」

乾杯、そう言ってグラスをくっつけた。

「スピナーは何してんの?」

お通しの枝豆を咥えながら話を振れば、彼は自分の帽子を指さした。
どこかのブランドだろうか、首を傾げれば彼が自慢げに笑った。

「俺が手がけたブランド。まだ有名じゃねぇけどさ、やっと軌道に乗ったんだ」

「へぇ、いいね。楽しそうだ」

「俺にもくれよ」

「やだね。そんなこと言いながらダセェとか文句言うだろ、荼毘は」

嫌そうなスピナーを見て、馬鹿にしたように鼻で笑う荼毘。

「そういう荼毘は?」

「適当」

「なんだよ、適当って。どうせまだ悪いことでもやってんだろ?」

「もう若くねぇんだから程々にな」

そう言ってビールを流しこめば、メニュー表を手に取った。
呼出音に手を伸ばした俺を見つめる、荼毘の視線に気づいた。

「……なんだよ」

「お前こそ大丈夫なのかよ」

「ん?何が」

呼び出しに訪れた店員にハイボールを頼むと、改めて荼毘を見た。
「なんで今更15年も前の事件掘り返すんだよ」

「俺も驚いたんだ。なんかしたのかよミスター」

「知らねぇってば、俺もニュースで知ったんだよ。てかさ、なんで俺だけ?あの時死柄木も荼毘もいたよな?」

一口飲んだハイボールをテーブルに置く。
なんだこれ、炭酸抜けてんじゃねぇか。
眉間にしわ寄せた俺を見て、呆れたように荼毘が呟いた。

「お前の容姿が一番目立つからじゃね?」

そう言われ確かに、と当時を思い出してみる。

「あの時に限ってマスクもしてなかったからなぁ……。いやでもなぁ……んー・・・」

「なんだよ、歯切れが悪ぃな」

「見てたヤツみんな消したろ」

「いや、1人いるじゃん」

俺の返しに2人は怪訝そうな顔をした。

「あれ?言ってなかった?今の嫁さんだよ」

「「は?」」

珍しく被った間抜けな声に、危うく噛み砕いた枝豆が器官に入るところだった。

「は、お前何言って」

「えー、言わなかったっけ?結婚式も来てたんだから知ってんのかと思ってたわ」

「頭おかしいんじゃねぇの?」

「はは、荼毘お前には言われたくないわ」

呆れた様子の荼毘に、頭を抱えたスピナー。
そんな心配しなくても大丈夫なのに、と呑気な俺。

「始末しようと追いかけたろ。でも意外と逃げ足が早くってさぁ」

あの日、外は大雨で出歩いてるやつなんて俺らぐらいしかいなかった。はずだった。
マスクどころかストックすら忘れたことに気付いた俺が、来た道を戻ろうとした瞬間だった。
音を立ててゴミ箱が倒れ、その拍子に走って逃げていく女の後ろ姿。
やばい、と思いすぐに追いかけたが、あと少しの所で女には届かなかった。
光が漏れた曲がり角を彼女が飛び出した所で、車が突っ込んできたのだ。
目の前に倒れ込んだ彼女を見て胸を撫で下ろすと、そっと闇に消えたのだ。

「それでなんで結婚……?」

お酒の力も手伝ってか、頭を傾げたスピナーはハテナマークを浮かべている。

「いやまだ続きがあってな」


生死を確認するまでは見過ごす訳には行かないと、彼女が運ばれた病院を調べた。
案の定命を取り留めた彼女は、近くの病院に入院することになった。
おろしたてのカッターシャツに腕を通し、スノードロップの花束。
花言葉は「あなたの死を望む」。

病室に入ると、彼女は意識を取り戻していた。
俺の顔を見るなり、弱々しい愛想笑いに「初めまして…?」の一言。
どうやら事故前後の記憶は無くなっているらしい。
必死で俺を思い出そうとする表情が、なぜだか切なく感じた。

「ごめんなさい…どうしても思い出せそうになくって」

「いや、大丈夫だよ。無理して思い出さなくて」

「…このお花私に?綺麗…」

「スノードロップって言うんだ。花言葉は“希望”」

そう言った俺を、心底嬉しそうに笑った彼女が見つめた。


「つーわけ。どう?ロマンチックだろ?」

そう言って左手の指輪をチラつかせれば、スピナーが気持ち悪そうに口元を抑えた。

「どこがだよ、怖ぇーよ」

「何が希望だよ。気持ち悪ぃ」

「荼毘、お前ねぇ…」

「さすがに引くだろ、そんな話」

「そう?結構いいもんだよ、スリルがあって」

「あんな悪ぃことしておいて、家庭まで持って普通の生活してるのお前だけだよ」

「はは、妬むな妬むな」

2杯目の酒を飲み干せば、メニューを広げた荼毘が呟いた。

「じゃぁミスター。お前の似顔絵を書いたやつは誰なんだよ」