「よ!お疲れ様」
「あぁ、お疲れ……荼毘は」
「アイツなら部屋。いつものやってる」
ドアを後ろ手で指せば、死柄木は深くため息をついた。
「…またかよ」
「今回は長いですね、荼毘くん」
閉められたドアの向こうからはなんとも言えない音が響く。
叫び声なのか、悦ぶ声なのか、中で何が行われているのかは誰も知らない。
ひとつ言えることは、あのドアの向こうに連れてこられた女共は生きて帰れないと言うことだけ。
「そうみたいだね〜いつもだったら監禁してんのも忘れて放置なのに」
「後片付けする身にもなってくれよ」
「これがホントの放置プレイ!なっちゃって」
「トゥワイスつまんねぇぞ、良いから呼んでこいよ」
急な要件なのか、苛立つ死柄木を横目でちらりと見れば呼び出された荼毘が扉から出てきた。
「なんだよ、ボス。今いい所なんだ」
扉が開き、中の音がよりクリアに聞こえる。
何かを引きずる音に、啜り泣くような女の声。
呼びに行ったトゥワイスもさすがに気になるようで、チラリと中を覗いた。
「なんだよ、覗き見なんていやらしいぜトゥワイス」
スラリと伸びる足でドアを蹴りあげ、重い扉が閉まった。
「珍しいな、Mr.も気になるのか?」
厭らしく笑う荼毘に目線を移し呆れたように言った。
「いや、別に。お前の悪趣味には興味無いよ」
両手を上げて首を横に振って大袈裟なポーズに、荼毘が舌打ちをした。
しばらくして荼毘はトゥワイスを連れてアジトを後にした。
どうやら死柄木から何かを頼まれたらしい。
ボスも何か用事があるようで留守になるし、特にここにいる意味はないだろう。
トガちゃんは気づけば居ないし、スピナーは奥の部屋に寝に行ってしまった。
「俺も出ようかな」
誰にも拾われることのない独り言を呟いて、扉の前を通り過ぎた。
さっきまでは気づかなかったが、扉が少し空いてることに気づいた。
悪趣味な性癖には興味無いとは言ったが、中で何が起こってるのか正直興味があった。
珍しく荼毘が夢中になっているみたいだし、どんな面白い女がいるのかと。
扉を軽く足で蹴った。
音をたてて開くドアの向こうには、ベッドに横たわる女の姿。
シーツのような布に包まるように丸くなっている。
だらしなく伸びる足元にはさびた鎖。
何かを引きずる音はコレだったのかと納得した。
少しだけ見るつもりだったのに、足は中へと進んでいった。
一目見るだけにしておこう、そう心の中で誓ってベッドまで歩み寄る。
顔にかかる髪の毛を指先で退かして顔を覗き込んだ。
白い肌に長いまつ毛。
色素の薄い髪の毛は地毛だろうか、スヤスヤと無防備に寝る姿はこの空間には似合わない。
よく見れば涙や鼻水の後、シーツから除く肌には痛々しい傷。
規則正しい寝息に、たまに混じるしゃっくりあげる声。
確かにいい女だろう。
見た目からしてそう感じさせるこの女に興味が沸いた。
どんな声で喋るのだろう、どんな笑顔で笑うのだろうと。
起きて欲しくて、涙が残る頬を指先で撫でた。
ゆっくりと開かれる瞳。
「…だ、び…」
「悪いね、荼毘じゃないんだ」
「…?…誰」
ビックリして起き上がることもなく、眠そうな瞳でこちらをじっと見つめる。
思った以上に可愛らしい声に、綺麗な色した瞳。
シーツに包まれた乱れた姿に下半身が反応する。
「んー…荼毘のオトモダチ、とでも言っておこうかな」
「そう…貴方はなんでココにいるの?」
こちらの方が質問する立場なのに、彼女は気にせず話し出す。
不思議な雰囲気にのまれ、ペースを乱しそうだ。
「君のことが少し気になってね。特に用はないんだ」
そう言って立ち上がれば、黙って見上げる彼女。
「…荼毘は…?」
「オシゴト中だって」
「…そう…。ねぇ、また会える…?」
なぜだかそんなことを言った彼女はニコリと笑った。
仮面越しの表情を読み取られそうで、黙って部屋を後にした。
「よぉ、Mr.待ってたぜ」
珍しくカウンターに座る荼毘。
その言葉通り、俺の帰りを待っていたようだ。
「おぉ、お疲れ。どうしたの、珍しい」
ハットをテーブルに置いて、少し離れた椅子に腰掛ける。
「…人のもの盗ろうとするなんて性格悪いぜMr.」
荼毘の言葉の意味をすぐに理解出来た。
「ん〜、なんのことかな」
いつも通りの俺の口調に、眉がピクリと動いた。
「お前、涼しい顔してやることはやってんだな」
「…はぁ。何を勘違いしてるのか知らないけど、荼毘お前が思ってる様なことはしてないよ」
「は、嘘つけよ。どうだったんだ?あいつの中は」
「勘弁してくれ。生憎そう言う癖は無いんでね」
このまま話してても無駄だと椅子から立ち上がる俺に、荼毘が言い放った。
「このままだとあの女死ぬぜ」
「……。」
「…お前じゃ無理だよMr.」
荼毘は俺の横を通り過ぎて、部屋を後にした。
なんとも言えない、モヤモヤとした腹の中が気持ち悪い。
なんの戸惑いもなく荼毘の部屋の扉に手をかけた。
いきなり開いたドアの音に、ビクリと肩を震わせる彼女の姿。
怯えたように揺れる瞳が俺を捉えると、みるみるうちに表情は明るくなった。
「やっぱり…!来てくれたのね」
「はは、そうみたいだな」
まるで囚われの姫にこっそり逢いに来た王子様のような台詞に、ついつい笑ってしまった。
何がおかしいのかと首を傾げる彼女の頭を優しく撫でた。
「…なぁ、逃げたい…?」
「……。」
「逃げるなら隠してあげようか…。おじさんね、こう見えてか隠れんぼは得意なんだ」
ゆっくりと彼女に手を差し伸べる。
差し伸ばされた俺の手に、スっと伸ばされた彼女の手。
彼女の表情も少しだけ嬉しそうに感じる。
だが、寸前のところで止まった手。
彼女は俺を見上げた。
「…あのね、彼がいないと生きていけないの…逃げたくても…荼毘のこと思ったら、なんでか戻ってきちゃうの…」
悲しそうに笑った彼女を前に何も言えなくなってしまった。
「貴方みたいな人が、荼毘の傍にいてくれるのね…それなら、もう安心ね」
なぜそんな言い方を彼女がしたのかまったくわからないが、
どうか彼女が幸せになりますようにと、涙で濡れた瞼にキスを落とした。
「あぁーん、もう!勘弁してよねぇ!」
マグ姉の声に我に返る。
「ちょっとぉ!男子!荼毘にいい加減やめろって言ってやってよぉ!」
「どうした?」
「殺すなら外でやれって!片付ける身にもなってよね!」
「荼毘くんは言っても聞きませんからね!」
開け放しにされた部屋からは焦げ臭い匂いと、ゴミ箱からはみ出た色素の薄い髪の毛。
彼女は最後まで幸せだったのだろうか。