助けてくれたのはヴィランでした1

「ちょっと、離してください…!」

「まぁまぁ、こんな時間にこんな道歩いてだいじょーぶ??」

臭い、こいつ酔っ払ってる…!

「なんかされるってわかっててわざとじゃねーの??ギャハハ」

「ちが…!」

言い終わる前に腕を捕まれ地面に叩きつけられた。
力加減が出来ないほど酔っ払っているのか、男達はフラフラと横たわる私の元へ歩み寄ってくる。
こんなことになるなら遅刻してでも明るい道通って置けばよかった…。
夜の繁華街とはいえ定期的にヒーローの見回りもあるし、
すぐ角を曲がったら明るい道に出るからと言って油断してしまった私のミスだった。

今日は久しぶりの休みで学生の頃の友達と集まって飲み明かす予定なのだ。
早くみんなに会いたくて、裏道使って走って行けば間に合うなんて安易な考えだった。

さっき倒されたせいで腕も足も擦りむいて
強く打ち付けたからだろうか、
すぐに立ち上がることも出来なさそう。
目の前には気持ちの悪い酔っ払い数名に、
現実を受け止めたくなくて目を固く瞑った私。

誰かの小さな叫び声と共に熱気が体全体に吹きかかった。
例えるなら、焚き火に手をかざしたモワッとするあの感じに近い。
焼けるほどの熱気のせいでなかなか目を開けられずにいた私が
ゆっくりと目を開ける頃には、酔っ払いは一人としておらず
少し離れたところにパーカーを深く被った細身の男が一人。

「…あ、ありが…と」

たぶんこの人が追い払ってくれたよね…うん。
熱風が出せる個性とか…かな?

「あの、本当に助かりました…!」

「ここら辺は危ないからな…気をつけて帰れよ」

ニヤリと笑った彼はズボンのポケットに手を入れ、さらに暗い路地裏へ消えていった。




あれから数ヶ月、あんな思いはもうヤダ。
嫌な思い出しかないあの道は絶対通らない。
そう思っていたのに、あの道の近くを通らなくては行けない用事に出くわしてしまった。

私、ホントついてない…きっと大丈夫、今日は近くを通るだけ。

そう意気込んで近くの横断歩道を渡りきった時だった。
数名の警察官に取り囲まれている黒服の男性。
チラッと隙間から見えた容姿は確かにあの時の彼だった。

さっきまで嫌な思い出しか頭をよぎらなかったのに、
彼を見つけてからは不思議と足があの道に進んでしまっていた。

「あのっ!あっちの大通りでヴィランが暴れてます…!
ヒーローも誰も来てなくて、助けてください!!」

「わかりました!近くのヒーローに応援を!!君はここを動かないで下さいね」

そう告げると数名の警察官は足早に大通りへ向かっていった。
ホッとした瞬間彼に腕を引っ張られ路地裏へと連れていかれた。
トンっと押され、壁に背中を付くと彼の片腕が頭上に置かれた。
所謂壁ドンってやつだ。

「よぉ、お嬢さん、こんな所でフラフラして…また襲われてーの?」

「ちがっ!あなたをみかけて、困ってそうだったから…この前のお礼もしたかったし」

「…ハッ、どう見ても困ってねーだろ。
……どうでもいいけど、お前は何してんの?」

「あ!今何時!?」

慌ただしくカバンをまさぐりスマホを取り出す私を横目に、
呆れたように大袈裟にため息を付いた彼。
やばいやばい!取引先に資料を渡しに行かないと行けなかったんだ。

「私、急いでるからこれで。この間はホントにありがとう!
…あ、私はお前じゃなくてナマエって言います!」

そう言い残し、足早に取引先へと向かった。


路地裏から明るい大通りに向かう彼女を見送ると、自分も反対方向へ歩き出した。

「荼毘くん、さっきの女の子かぁいいねぇ」

「は?」

「俺もみちゃった!すげー可愛いの!いや、すげーブス!」

「おい、てめぇ「へぇ、器用なんだな…うらやましいよ」

ボリボリ首筋を掻きむしるボスに、トゥワイスもいかれ女もはしゃぎやがって。

「あの子はいつ合わせてくれますか?」

「そうだそうだ!俺たちに紹介してくれ!興味ねーよ!」

「……そうだな、俺のもんになったらあわせてやるよ」




すっかり遅くなってしまった帰路は、街灯があるものの薄暗く気味が悪い。
なんで忘れものなんかしたんだバカ!あたし!

仕事終わりいつもの電車に乗ろうとホームに着いたところでスマホがないことに気づく。
急いで仕事場に取りに行ったが、
デスクの上にあるはずのスマホが机の隅に落ちていることに気づくまで10分。
重いデスクを退かしてスマホを取り出すまでに10分。
やっと手に入れた安堵から隣のデスクに当たってしまった。

隣は整理整頓が出来ないと噂の山本くん。
普段から資料が山積みのデスクはクレーム電話に焦った彼によって雪崩が起きるのだ。
雪崩が起きた資料たちは私のスマホを下敷きに床に散乱していったのだ。
恨むぞ山本…!

片付けまでしてたらトータルで1時間はかかってしまった。
息が白くなるほど寒いこの時期あっという間に真っ暗になってしまうのだ。
寒さと無駄に歩いたしまったせいで痛む足。

それと、気のせいだと思ってた後ろから聞こえる自分以外の足音。

気にしないようにしてたのに一気広がる鳥肌に、こめかみから流れる冷や汗。

振り向いて確認するなんてそんな度胸はない。
あの角曲がったら確かコンビニがあったはずだ…!
あそこまで全力で走ろう。
そう思い痛む足先に力を入れて踏み込んだ瞬間後ろから腕を引っ張られたのだ。

「動いたら殺す

叫んだら殺す

泣いても殺す」

耳元でブツブツと物騒な言葉を続ける男。
首元に痛いほど食い込む指、呼吸は乱れ喉はヒューヒューと鳴っている。

ガクガクと震える膝は力が入らず、男の力でやっと立ててる状況だ。
男の股間と私のお尻が密着するように引き寄せられると、
カクカクと腰を振り始めたのだ。
腰を掴んでた手はスカートの中をまさぐり、乱暴に下着ごと脱がそうとした時だった。

ボキッと何かの音と同時に男が私から離れた。
何が起きてるかわからないが恐怖で固く閉じた瞼。

た、たすかった…?

そう思うと同時に再び抱きしめられた。

「大丈夫か?」

「俺が、わかるか…?」

「怖かったら目を瞑ってていい」

誰なのかは混乱しててよくわからないが、
確実に私を助けようとしてくれてるのは辛うじて感じ取れた。
安心させるかのように抱きしめられるその腕に必死にしがみつくと、耳が腕によって包み込まれ聴覚が遮断された。
それと同時に何かが焦げる臭いと熱気。
あれ…?この感じどっかで…

徐々にハッキリしていく意識と、誰かの腕に抱かれている感覚にハッとして相手の胸元を強く押し返した。

「…なんだよ、助けてやったのに酷い女だな…なぁナマエちゃん?」

彼を月夜が届く場所で見るのは初めてだった。
顔から首にかけて広がる火傷のような傷にゾッとした。

「あ…ごめ、なさ、」

震える唇は上手く喋れなくて、恐怖から解放された瞳からは涙が溢れ出す。

「怖かったなぁ…慰めてやるよ」

そう言ってもう一度自分の胸元に引き寄せた。




自宅に着きリビングに彼を通すと、ドカッと座り自分の家かのようにテレビを付け始めた。
暫くは居てくれるであろう彼の様子にホッとし、
寝室にいくとスーツのジャケットをハンガーにかけた。
忘れてしまいたいのに頭の中には先程の恐怖で支配されてしまう。

ガチャ―――

扉の音でさえビクッと肩を揺らしてしまうと、開いたドアから彼がゆっくりと近づいた。

「まだ怖いのか…?」

「っ…うぅっ…」

泣き出したわたしの顔を覗き込むように、屈んだ彼が溢れる涙を掬った。

「大丈夫だ、俺がいてやる」

何故か嬉しそうにニヤリと笑った彼に、これっぽっちも違和感なんて感じなかった。
ただ彼がいてよかった、彼でよかった…
そう心の底から思いそのまま抱きしめられながら眠りについた。



スマホの振動で目が覚めた。
震えたスマホは私のものではなく、彼のものだった。
後ろから抱きしめる腕がスマホに伸びた。

「あぁ…わかった、すぐ行く」

要件が終わると、スマホをベッドに放り投げ再び私を抱きしめた。

「いか、なくて…いいの?」

泣きすぎたのか掠れて思ったより出ない声。

「ねみぃ」

朝が弱そうな彼の方に向き直ると、

「ひどい顔だな」

そう言って彼の指が私の目元を撫でた。

「…昨日は、ありがとう。お兄さんが来てくれなかったら…」

「荼毘、な」

「…だ、び…?」

「名前」

「荼毘さん…」

「はは、さん付けなんか気持ちわりぃ。荼毘でいい」

「ん、」

「そろそろ行く」

咄嗟に掴んでしまった服を離そうとすると彼に手を掴まれた。

「また夜にでも来てやる」

「ホントに?」

そう聞くと頭を撫でられた。
心地よくて目を瞑ると、おでこに軽いキスを落とされた。

「いい子で待ってろよ?」

ジャケットを来た彼は部屋を後にした

その日の夜も、
次の日の夜も、
夜に会えない時は昼間に。
私の様子を見に彼は会いに来てくれた。
何か食べるかと聞く私に魚はダメだ、という。
子供みたいだね、と笑えば、黙れ、と言いながらキスを落としていく。

夜は必ず一緒に寝てくれるし、決まっておでこにキスをして優しく抱きしめてくれる。
今まで何人かの男性との経験はあるが、ここまで何もしてこない男性はいなかった。
元々、行為が得意ではない私は、抱いて欲しいなんて感情は持ち合わせていなかったのに、

もっとキスして、
もっと触れて、
もっとあなたのことを教えて、
会う度にどんどん増えていく欲。

でも私たちは付き合ってるわけではないし、荼毘に好きだと言われた訳でもない。


向き合って寝る彼の顔を見つめる。
火傷の痛々しい傷も今となっては触れたいとさえ思うのだ。

見つめてたのに気づいたのか腰に添えられた腕に力が入り、
ぎゅっと寄せられる。

「どうした?寝れないか?」

「…ううん」

「…泣いてんのか…?」

「荼毘…」

涙を貯めながら見つめる私を見つめ返す荼毘。

「…もっと、触ってほしい、よ…」

「…それどういう意味で言ってるのかわかってるのか?」

そう言いながら私の上に覆いかぶさった。

「ん…もっと。…好きだよ、荼毘」

キスに応えるように彼の首に腕を回す。

「ん…はぁ…んぁ」

「ナマエちゃん、俺も好きだぜ」

「あ…だ、び」

舌を絡め合うキスも、
首筋に落ちていく口付けも、
こんなにも気持ちいいものなんだと初めて知った。

「っ…はぁ…だび、すき、すきなの」

「ん…もっと、言え」

「すき…す、き…んぁ!…だび」

「はは…ほんと可愛いな、お前は」

耳元で響く低い声も、
秘部に挿れられる骨ばった長い指も、
激しく打ち付けられる腰も、
全部が愛おしい。

「っはぁ…またイッたの、か?」

ニヤリと見下ろす瞳から目が離せなくなって、

「も、だめ…」

「もう少し、頑張れ…な?」

「んぁ…!だめ、また…またイッちゃう…!」

「ははッ…イケよ…!俺も、イクから」

「〜〜〜っ」

「ッ…!」

お腹の上に出された白い液体を肩で息しながらぼんやり見つめた。

「…好きだナマエちゃん。俺だけのもんだぜ…?」

そう呟いた荼毘に頭を撫でられながら意識を手放した。

目を覚ますと、同じく裸のまま寝ている荼毘が隣にいる。
昨日の行為を思い出し、恥ずかしくなりモゾモゾしていると、
起きてしまったであろう荼毘に引き寄せられた。

「なにしてんだ?…まだ足りねぇのか」

「ち、ちがっ」

「しょうがねぇ奴だな…」

「ちがく、て…ンやっ…!」

「はは、いい声で鳴けよ、ナマエちゃん」


やっと解放された時には、時計が昼過ぎを指していた。

「もぉ…やりすぎっ」

「んなこと言いながら気持ちよさそうにしてただろ?」

「そ、それは…」

冗談言い終わると真面目な顔になった荼毘に、突然のことでドキッとしてしまう。

「どこにもいくなよ。お前は俺のだからな」

そう言ってまっすぐ私を見る目は鋭く、獲物を狙っているかのような目だった。
見つめられるだけで下腹部がギュッと締め付けられる。

「ん、わたしは荼毘のだよ。だから、もっかい…ね?」

「あぁ、約束だ」

あの時のようにニヤリと怪しく笑った。