テレビに流れるのは古い映画のワンシーン。
たくさんの薔薇の花束を手に、膝まづいて愛の言葉を言う男性。
両手で口元を覆って嬉しそうに返事をする女性は涙ぐんでいる。
「これまた古い映画やってんのな」
懐かしいー、と風呂上がりにガシガシとタオルで頭を拭く彼が隣に座った。
癖の強い彼の髪先からはポタポタと水が滴る。
首にかかったタオルを取れば、当たり前のように頭を差し出すから優しくタオルで包み込む。
「たまたま付けたらやってた〜、これ見るの初めてなの」
「え、初めて?昔流行ったやつよ。年の差だねぇ〜」
そう呑気に言う彼は、実際自分の年齢なんてさほど気にしてはいないだろう。
口癖のように自分のことを「おじさん」そう呼ぶ彼が私は好きだった。
「薔薇とか貰ったことある?」
拭き終わったタオルを取れば、彼は顔を上げてそう言った。
「ううん、1度もない」
目の前に差し出された手は、くるりと開くと1本の薔薇が現れた。
今までだって何度か見たことある彼の手品には、いつも驚かされる。
「はい、どうぞ」
「…ありがとう」
「あれ?嬉しくなかった?」
「ううん、嬉しいよ。でも、私薔薇って感じじゃなくない?もっも派手な人が持つイメージで」
「そんな事ないけど、お前の言いたいことはわかる」
そう言ってテレビのリモコンを手に取ると、適当にチャンネルを回しだした。
「これから毎日送ってあげるよ。100本渡す頃には薔薇が似合う女になってるんじゃないか?」
こちらを見ないでそう言った彼の耳はほんのりピンクで、嬉しくて抱きついた。
それから彼は本当に毎日薔薇を私に手渡した。
「“この世界は2人だけ”」
そう言って渡された2本目の薔薇。
さすがの私でもなんだか恥ずかしくて、黙ったままで居れば
「今クサイとか思ったろ。薔薇って本数で意味が違うんだって、調べてみ?」
彼の膝の間に座り込んで、スマホで調べた。
「ほんとだ…」
「だろ?クサイの俺じゃなかったじゃん」
「クサイとか思ってないって。ちょっとキザだなって」
「いや、同じだろ」
そう言って2人で笑った。
「ねぇ、この先は見ないでおくようにするから、できるだけ2人で一緒に意味調べよう?」
自分でも驚くぐらい女の子らしい発言に、彼は優しく笑って頷いた。
「13本目…永遠の友情だって!」
「へぇー、それは俺も知らなかったわ。こんなのもあるんだな」
「ね!面白い」
「そう言えば、明日からちょっと忙しくなるんだわ。ごめんな?」
少し困ったように彼は言うから、いつものように強がって
「大丈夫。待ってるね」
笑って言った。
その日の夜、やっぱり彼は帰って来なくていつの間にか眠ってしまった私。
最後に時計を見たのは確か23時頃。
隣をみれば布団はそのままだし、帰って来てないのだと理解した。
忙しいって言ってたし、しょうがない。
ため息を零しながら起き上がれば、枕元に1本の薔薇。
嬉しくて、幸せで、優しく薔薇を抱きしめた。
どんなに忙しくても、彼は薔薇を届けた。
手渡しでくれる日もあれば、私が仕事中に自宅のテーブルに置かれていたことも、枕元に置かれていたこともあった。
50本の時は一緒にケーキを食べた。
“永遠”と意味をみれば、朝まで愛し合った。
喧嘩する日もあったが、ごめん。の言葉の代わりに薔薇を差し出すから、ずるいと言って抱きしめた。
78本あたりであなたの顔を見ることはなくなった。
それでもバラがあれば、私はそれに喜んだ。
テーブルの上、枕元、お風呂の中、トイレ…
隠すように置かれた薔薇を探すのも楽しかった。
97本を最後に薔薇は家のどこにも置かれることはなかった。
その意味を理解したくなくて、現実から逃げた。
ある日の夜、ベランダから1人の男が入ってきた。
こんな時に空き巣かと、布団を被って震えた。
男は枕元に何かを置くと、ゆっくりベランダの方へと向かった。
もしかしてと飛び起きてベランダを見る。
彼より小柄な男の姿に、期待していた心は崩れ落ちた。
彼ではなかった。
レースのカーテン越しの彼に見覚えがあった。
「し、がらきさん…?」
黙ったままの彼が、ゆっくりと枕元を指さした。
「あんたなら、この意味がわかるよな」
そこには4本の薔薇が置いてあった。
【死ぬまで気持ちは変わりません】
泣き崩れる私に彼が何かを言おうと口を開いた。
「謝らないでくださいっ…!あなたがその言葉を口にするのであれば、今すぐあなたを殺します…っ!!」
しばらくじっと私を見つめるその目が何を思っているかは、私には分からなかった。
それでも彼が尽くした思いがあるのであれば、一生背負って言って欲しいと、私の分まで。
何度も死んでしまおうと考えた私は、時間が経つにつれ前に進もうと必死に生きた。
生きているか死んでいるかわからない彼は、どちらにせよ何かの事情があって会いに来れないのだと分かっている。
その為に彼に4本の薔薇を託したのだろう。
2日後、私はこの街を出る。
すっかり枯れてしまった薔薇を眺め、彼の好きだったコーヒーを啜る。
そう言えば一つだけ疑問が残る。
何故100本ではなく、101本だったのか…。
完璧主義のエンターテイナーが数え間違え…?
それとも100本を迎えるのに私が不釣り合いだったから…?
最後の最後に嫌味が言いたかったのかと、スマホを開くと101本の薔薇の意味を調べた。
【これ以上ないほど愛しています】
「ばっかじゃないの、直接言いに来いってば…」