初めはキスだけだった。
その2日後には体を重ねていた。
5回目の行為の後には黙って差し出された腕を枕にして、抱きしめられながら朝を迎えた。
10回目を超えたであろう行為中、私から好きだと呟いた。
少し驚いた顔していた彼は、珍しく笑った。
「珍しいな、お前がそんなこと強請るの」
「っはぁ…ダメだった?、ん…その方が盛り上がらない?」
強がってそう言えば、納得したように耳朶に唇を寄せた。
「好きだ…」
涙で濡れた瞳を隠すように彼にしがみついた。
何度も好きだと零せば、それに合わせるように彼の唇からも零れた。
始まりはいつも私からで、終わりは彼だった。
私を抱きに来る、というより性欲を押しつけにくるのが彼だった。
満足して帰る日もあれば、ダラダラと居座る日もあった。
ドロドロに甘やかしていく日もあれば、イラつきをぶつけるかのように激しい日もあった。
腹が減れば冷蔵庫を勝手に漁り、テレビもシャワーもエアコンもまるで自分の物かのように扱った。
これが俗に言う”ヒモ“なのかと思えば、突然帯の付いた札束を放り投げてくることもあった。
そんな彼は自らの事を荼毘だと名乗り、それ以上は話す気がないと言い放った。
どこからどう見ても不審者な男に、まるで呪いがかけられたかのように依存していく私はイカれているのだろう。
彼の声に、匂いに、指先に。
抱かれれば抱かれるほど夢中になってしまう私が嫌いだ。
ふとテーブルをみれば彼の愛煙しているタバコの箱があった。
彼用にと用意した灰皿には長めに押し付けられた1本の吸殻。
せっかく火をつけてたのに二呼吸もすることなく消されたソレを見て、急いでいた様子が想像出来た。
きっと舌打ちをしながらジャケットに腕を通したんだろうと思うと胸が苦しくなった。
タバコの箱を手に取り眺める。
前回はライターだったっけ…。
その前は確かピアスに、香水。
その度に捨ててやろうと思うのに、大事に取っておいてしまう私は心底彼に惚れている。
二週間ぶりに姿を見せた荼毘は、私を抱きしめながら眠りについた。
朝と呼ぶには微妙な時間帯に起きると、ゆっくりと起き上がった。
「…ねぇ」
彼に背中を向けたまま声をかけた。
「この間タバコ。持っていってね」
「あぁ」
「もう忘れ物しないで。迷惑なの」
体を纏うシーツを強く握りしめた。
震えた体が彼に見つからぬよう、強く。
もう君を思い出すものを置いていかないで。
気を感じせる物を忘れていかないで。
決して音に乗って吐き出されることの無い言葉を、心の中で叫んだ。
無言で近付く足音にギュッと目を瞑る。
腕を掴むと強引に引き起こされた。
そのまま首にキツく吸い付いた。
痛みに近い刺激に、肩が飛び跳ねた。
リップ音と共に離れた彼が、まっすぐこちらを見る。
「そんだけ強くすれば1週間は持つだろ、それまでにはまた来る」
そう言うから我慢してた涙はポロポロと溢れてしまった。
「もう、無理なの…中途半端に期待させないで」
腕を振り払えば、駄々を捏ねたように彼の胸元を押し返した。
こんなみっともない姿見せたくなかった。
出来ることなら最後まで、都合のいい女で居たかったのに…。
泣きじゃくる私の後頭部に手を添えると、髪の毛を鷲掴み顔を引き寄せた。
「無かったことにして、自分だけ楽になろうとするなよ」
そう言って深く口付けた。