「なぁ」
いつものように背後からかけられる声に肩を震わせた。
何度されたって慣れるものではないし、相変わらず自動ドアはなってはくれない。
「昨日ボスと何してた?」
「ボス?」
突然の問いに首を傾げる。
「なんか親密そうに顔触ってたろ」
「?何もして…あーぁ、弔さんか。髪の毛です」
「髪の毛?」
「長くなったねって話から、横に流した方がいいのにって。ヘアアレンジして楽しんでました」
あの時の弔さん、新鮮でよかったなぁ…。
そう思い出しながら手元のお菓子を陳列する。
両手に掴んだポテトチップスを棚へと置こうとすると、後ろから伸びてきた手が乱暴にポテトチップスごと棚に押し付けた。
後ろから覆い被さるように、彼の影で私の視界は薄暗くなる。
「随分ナカヨシなんだなァ」
不機嫌なのか、それとも茶化されているのだろうか…。
この状況からどんどん小さくなってしまう私。
どうしてそんなことを攻められているかも分からず、ひたすらパニくってしまう。
どうすることも出来ず彼に背中を向けたまま、そのまま座り込んだ。
しばらくして同じように座り込む彼をちらりと見れば、やっぱり不機嫌そうな顔。
「お前、俺以外に近すぎないか?」
(パーソナルスペースが近すぎるのは貴方です!)
喉先まで出ているのに声にならない。
何も言わない私に痺れを切らしたのか
「俺もやって」
そう言って自分の頭を指さした。
連れてこられたのはイートインスペースで、座った彼の足の間に立たされた私。
「ん」
一言そう言って差し出された髪の毛を恐る恐る触る。
思ったよりも柔らかい髪の毛に警戒心も恐怖心も吹っ飛び、動物を撫でるかのように夢中で触ってしまった。
「ヘアアレンジはどうしたんだよ」
「あ、気持ちよくてつい…」
「なんだそれ…てか眠くなってきたわ」
頭を撫でられ気分を良くしたのか、大きなあくびの後ゆっくりと立ち上がった彼。
見上げるた私と目が合えば、伸びてきた指先が私の髪にふれた。
耳元から掬うように一束取ると、スルスルと毛先まで滑らせる。
「…綺麗だな」
優しい目で、優しい声でそう言うと、大きな手で私の頭を撫でてコンビニを後にした。
珍しく鳴った自動ドアが閉まったと同時に、座り込む私の顔はきっと真っ赤だ。
(荼毘さんって…なんかズルい…)