外は台風で荒れまくっている。
こんな日は深夜のコンビニにお客さんなんか来る訳もなく、珍しくバックヤードに籠ってジュースを補充。
「さっむ〜」
お店のベンチコートを羽織っても、両手をさすってしまうほど寒い。
なんだかんだ昼間は結構繁盛しているらしく、空いたスペースにペットボトルを入れていく。
ガシャガシャー…
(ついでにアルコール類もやっておこうか…。)
奥へと移動して、缶に手をかける。
レーンに引っかかった缶ビールを奥へと押し出した。
缶ビール越しににゅっと覗き込んだ不気味な人影。
「ひゃぁぁ!!」
「なんて間抜けな顔してんだよ」
馬鹿にしたように笑った荼毘さんが、店内からこちらを覗いて言う。
「び、びっくりさせないでくださいよ!」
「は?お前が勝手にビビっただけだろ」
こんな大雨の日に来るとは思っていなかったから、油断してしまった。
自動ドアに反応しないこの人はまさに神出鬼没だ。
手元のアルコールを陳列して、バックヤードから出た。
「…って、なんですかこれ」
髪の毛や服の裾から滴る水。
びしょびしょなんてレベルじゃない。
よく見たら入口からぐるりと回って来たであろう、彼の道には水溜まりの後。
あ、ここで立ち止まって私を探したんだとはっきり分かる水の量だった。
レジ横のおでんの前と、ホットスナックの前。
(いや、私を探してたんじゃなくて廃棄のチェックをしてたのね)
「…台風」
「いや、知ってますって。なんで濡れてるのにこんなに歩き回ったんですか」
「…客だから」
「あー…そうですね、すみません、いらっしゃいませ」
廃棄チェックをしにくる客がどこにいるんだと言いそうになったが、この人には何も通じないのだから諦めるしかない。
その代わりの盛大なため息。
「なんだよ、機嫌悪ぃな」
「いえ、特に。至って普通ですよ」
「悩み事か?相談なら聞いてやるぜ?」
「…結構です」
何が面白いのか、ニヤニヤと笑いながら店内を歩き回る私の後を着いてくる荼毘さん。
彼のせいで床掃除までやらなくてはいけなくなってしまった。
モップを片手にフロアを進むが、何故か後ろから着いてくる荼毘さん。
「せっかく拭いてるのにうしろっうわぁっ!!」
振り向いて文句を言おうとすれば、振り向きざまに滑ってしまった。
ギリギリのところで荼毘さんの手によって、助けられた私。
「だっせ。”床が滑ります、お気をつけ下さい"」
立て掛けた注意札を指さして、そう言う彼。
「誰のせいですか…荼毘さんって意地悪ですよね。いじめっ子みたい」
「なにそれ褒めてんの?」
「そう思います?」
「別に、興味ねぇ。つーか助けてやったんだから、あれ。食べていい?」
そう言って指さすのは、蒸されすぎてシワシワになった肉まんと染み込みすぎた茶色いおでんの卵。
「あー…はい、お好きにどうぞ」
食べている時はほんとに大人しい。
箸の使い方も食べ方も、綺麗なのだ。
きっと親御さんがしっかりしているんだろうと、横目で見ながらバックヤードからタオルを持ち出した。
「はい、良かったら使ってください」
むしろこれ以上床を濡らさないためにも使ってください、と気持ちを込めてタオルを差し出した。
頬張った卵が右ほっぺで膨らんでいる。
もぐもぐと揺らしながら、少し考えて頭を下げた。
「ん」
(これは拭けってやつだ)
頭にタオルをかけてわしゃわしゃと撫でる。
ある程度乾けば、彼の頭からタオルを剥がした。
ボサボサになった荼毘さんが、そのままおでんの汁を飲み干した。
「はぁー…うま」
眠くなってしまったのか、そのままイートインスペースのテーブルに伏せて寝始めた。