【死柄木弔】
「デートってやつ、しにいくか」
突然言い出した弔くんは私の手を引いた。
いつも手を繋ぐこと嫌がるくせに、彼から繋がれたのは初めてだった。
ぎこちなく繋がれた手は暖かくて嬉しい気持ちになった。
どうして今日はそんなに優しいの?
そう聞きたいのに、弔くんの顔みたら言葉が出てこなかった。
嬉しいはずなのに視界は涙でぼやけていくし、拭っても拭っても溢れた。
困ったように笑った弔くんが手を少しずつ解いていく。
「や、だ…弔くん。手離さないで」
子供のように駄々をこねる私から、少しずつ離れようとする弔くんだって泣きそうな顔してるじゃんか。
お互い辛いなら離れないで一緒にいようよ。
「俺が俺じゃなくなったら、お前はどうする?」
「弔くんは、弔くんだよ」
「…そうじゃなくて…」
伝わらないもどかしさに少しイラついてるみたいだ。
「ずっと弔くんを呼び続けるよ。無視されても拒絶されても…こ…ころ、されても…弔くんが戻ってくるまで何度だって呼ぶよ…!」
言い終わる頃には弔くんに抱きしめられて、肺いっぱいに彼の匂い。
「俺を呼ぶ、お前の声だけ信じるよ」
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【荼毘】
いつもと同じ光景なのに、何故だか今日が最後のように感じた。
彼は気まぐれだから、つなぎ止めておくことなんて無理なのは分かってる。
だからこそいつでも君が帰ってきていいように。
君が帰ってきても困らぬように、温かいご飯も綺麗なお風呂も、暖かい寝床も全部用意してるんだよ。
ボーッとテレビを眺める君が
「なぁ…お前もこういう所行きたいと思うか?」
そう言い出すものだから
「い、いきたい!すごく!」
食い気味に言った私を見て「必死かよ」と笑った。
たぶん最初で最後のデートなんだって自分に言い聞かせながら街中を2人で歩く。
泣きそうな顔も見られたくないし、どこを歩いていいか分からない私は君の半歩後ろを歩く。
止まって後ろを振り向いた君が
「お前のやりたかったデートってこんなもんかよ」
不機嫌そうに言うから、我慢してた涙は頬を伝った。
首を横に振りながら「違う、違うよ」泣きじゃくる私の手を引いた。
大きなガラス窓の前まで連れていかれると君の足は止まった。
「よく見ろよ。お前にはこれがコイビトには見えないのかよ」お店の窓に反射して映る2人の姿に見とれた。
再び手を引く君はこう言った。
「おまえだけは離すかよ」
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【Mr.コンプレス(迫圧紘)】
久しぶりに体を重ねた次の日の朝は、いつもより眠いし体もだるい。
それでも隣にいる貴方を見れば、世界一幸せなんじゃないかと思うのはきっと、錯覚なんかじゃない。
「おはよう、起こしちゃった?」
「いや、そろそろ起きようと思ってた」
と、言うことは今日もどこかに行ってしまうんだと、一気に幸せな時間は崩れ去った。
「お嬢さんの今日のご予定は?」
「んー…特にないかな」
「それじゃぁこの間言ってた店のモーニング、どう?」
「っ!賛成!!」
嬉しくて抱きつけば、寝癖を手ぐしで梳かしてくれた。
軽く身支度をして2人で家を出た。
お目当てのお店でゆっくりコーヒー飲みながら、雑誌に目を通す貴方。
スマホを眺める手を止めて見つめれば、ちらりと目線だけこちらに移す。
「どうしたの?そんなに見て」
「んーん、毎日続けばいいのにね…」
何がなんて聞かないのは、何も考えてるか分かってしまうほど絆が深いからだ。
「…続くでしょ」
「無理、しなくていいよ。何となく分かってるから」
頬杖を着きながらそう零すと眉を下げて貴方は笑う。
店を出れば腕を絡めながら歩いた。
ゆっくり歩く私の歩幅に合わせてくれる貴方。
組んだ腕を解かれて心臓がズキっとした瞬間、指先を絡めるように手を繋がれた。
「お前も来る?」
「…あんだけダメだって、言ってたのに…?」
「やっぱお前みたいないい女置いて行けないわ」
高く抱き上げられれば、片手の彼の負担にならぬようしがみついた。
「だからさ、もう大人の女演じなくていいって。俺意外に泣き顔好きよ?」