目が見えない個性事故

【爆豪勝己】

爆豪を庇おうと咄嗟に体が動いていた。
暫くしたら治ると診断された後なのに、目の前に座っているであろう爆豪は怒っているらしい。
ガタガタと椅子からの振動で伝わる小刻みな貧乏揺すりと、ガチガチなってんのは歯ぎしりだろうか。
聴覚からでしか得られない情報に、不謹慎にも笑ってしまいそうになるのは私の悪いところだ。
ここで耐えなければ、彼はもっと怒るだろう。

「ありがとうとでも言うと思ったか…っ!?」

やっと口を開いた彼が呟いた。

「お礼を言われたかった訳じゃないし、謝って欲しい訳でもないよ。ただ、体が勝手に動いてたんだって」

そう言うと舌打ちが聞こえた。

「いつも守ってもらってる。私だってみんなのこと守りたい」

私だってヒーローなんだと主張すれば、彼が動いた気配がした。
気づいた頃には抱きしめられて、爆豪の匂いがする。

「ンなのわかっとるわ!…守ったてめぇが怪我したら意味ねぇだろ。次はてめぇも無傷で勝てや」

そんな無茶な、そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
私を抱き寄せる彼が、珍しく震えてた。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【轟焦凍】

個性事故に巻き込まれたと連絡がきて、すぐに病院へと駆けつけた。
病室に着けば警察、先生方、子供の保護者と、狭い病室が益々窮屈になっていた。
子供の頭を下げながら泣いて謝る女性に、困ってる彼女がいた。

「もう、大丈夫ですから。数時間後には治ってると診断されたので気にしないでください」

「でもっ…!」

「これは事故だったんです。あまり攻めるとその子だって辛い気持ちになります。もう謝らないでください」

そう言った彼女はいつものように笑っていた。
事情聴取も終わって、病室にいるのは俺と彼女だけになった。

「…俺とナマエしかいないぞ」

「…ありがと。あのね、本当は見えないことがすごく怖いの。でも個性を制御できないあの子の方がもっと怖い思いしてる」

こんな時でも人のことを思ってやれる彼女を心から尊敬する。
震えた手に自分の手を重ねた。

「俺の前では強くなくていいから」

するとポロポロと大きな瞳から涙が零れた。
子供のように泣き出した彼女を優しく抱き寄せた。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【緑谷出久】

「出久、大丈夫?」

「はは、大丈ー…ばないかな」

そう苦笑いした出久。
発目さんの開発した試作品の、ヴィラン拘束サポートアイテム。
一時的に視覚を遮るアイテムらしいが、それがまさかの誤作動を起こしてしまった。
たまたま居合わせた出久は見事にソレの餌食となり、見事に実験体となってしまった。
目元をガッシリと包み込まれてしまった彼の姿はとても辛そうだ。

「そうだ、ナマエちゃんの話聞かせてよ」

「私の?うーん、面白い話あったかなぁ……あ、この間ね」

暇潰しにでもと話し出すと、ウンウンと頷き真剣に話を聞く出久。

「ははは、そんな面白いことがあったんだね」

「でしょ!?私もびっくりした!……出久?どうしたの?」

「えっと…目が見えないとさ、耳が敏感になるんだなぁって。……君の声、すごく好きだな…」

こちらに体ごと向ける彼の目はまだ治っていない。
その言葉に緊張してしまった私は、彼を目の前にして返す言葉が無くなってしまった。

「……でもやっぱキツイかな、声聞くと君の顔見たくなっちゃう」

いつもならこんな時、焦るのは彼のはずなのに。
見えてないはずなのに、なんだか全てを見られている気がして真っ赤な顔を背けた。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【死柄木弔】

トガちゃんに手を引かれ、アジトに帰ってきた。
すでに連絡は行き届いていたらしく、みんなが心配そうに集まった。
そんな中、少し遠くの方から弔くんの声がした。

「ドクターはなんて?」

「一時的に拘束するものらしいです。今日か明日には治るっと仰ってました!」

「ふーん。ドクターが言うなら間違いないんだろうな」

そういうと、ずっと握られていたトガちゃんの手がそっと離れた。
もう大丈夫ですよ、と声を掛けてくれたのは、弔くんがいるからという意味だろうか。
次々に部屋から出ていく足音に、少し気まづくて黙ってしまう私。

「……ごめんね、弔くん」

「なんで謝ってるんだよ」

「だって……取り逃しちゃった…」

「そんなの別にいい。それにしてもやっかいな個性だな、そのいつの個性」

突然の気配に彼が立ち上がったのがわかった。

「ど、どこ行くの?」

「…いい子で待ってろよ」

「待って、やだよ!側にいて!」

「このまま明日まで待つつもりか?俺は気持ち悪くてとてもじゃないが寝れないよ。そんな奴壊そう。そうしたらお前も俺も気持ちよく寝れるだろ?」

縋った手を彼がゆっくりと解けば、頭を優しく撫でた。
スっと離れたかと思えば、少し乱暴に扉が閉じる音がした。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【荼毘】

「おい、大丈夫か?」

「可哀想だな、見えないのは辛いよな?」

「いっその事死んだ方がマシか?」

黙ってれば勝手に話を進めていく彼に、いつも通り聞き流すなんてことは出来なかった。

「ちょっと、勝手に殺さないでよね、明日には治るってば。てかそんな慰めてくれるならソイツを殺ってきてよ!!」

八つ当たりした私は声を張り上げた。

「それならもう解決済みだ」

耳元で荼毘の声がして、ふわっと当たる吐息と鼻を掠める焦げ臭い匂い。
身体が勝手に何かを感じ取って肩を竦めば、彼がグッと引き寄せた。

「っ、だ、!」

「俺が何もしないで見舞いにくると思ったか?」

そう言って強制的に手に握るよう持たされた球体2つ。

「これはほんの土産だ」

ヌチャリとした感覚に、全身を鳥肌が駆け巡る。
小さな悲鳴と共に手放せば、荼毘の笑い声が鼓膜に響いた。

「お前のために取ってきたのに、酷いやつだな」

「だ、だからって目ん玉渡されて喜ぶわけないでしょ!?」

「あー…そうか?…ま、どうでもいいや」

そう言って私の服に手をかけた。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【Mr.コンプレス】

「大丈夫かい?お嬢さん」

「っ、大丈、夫なわけないで、しょ……!」

きっとミスターは心配で見に来てくれたのだ。
そう頭の片隅では思うのに、今の私の情緒ではそれを素直にありがとうとは言えなかった。
視界が遮られた真っ暗なそこは、死ぬほど怖くて悲しい。
いっその事死んだ方がマシなんじゃないって。

「ダメだよ。余計なこと考えちゃ」

ミスターに見透かされたソレに、肩が震えた。
怒っているのか、いつもよりも声が低い。
そんな私に彼がふわっと笑った音を立てて、頭を撫でた。

「ほら、これ飲んで落ち着いて。大丈夫だよ、ちゃんと治るから」

差し出された温かい飲み物に、ゆっくりと手を伸ばす。
ゴクリと飲み込んでしばらくすれば、段々と眠気が襲ってきた。
背中をトントンとリズム良く叩く指先が気持ちよくて、泣いた瞼が重くて、気付けば眠りについていた。

「ナマエチャン寝ましたか?」

「……あぁ。」

「わざわざ圧紘くんが行かなくても」

「こういう時ぐらいカッコつけさせてくれよ。後はお願いな、トガちゃん」

遠くの方で彼らの声がする。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【スピナー】

彼女を目の前にしてかける言葉が見つからない。
適当な言葉を見つけては見たものの、それで彼女を安心させられることが出来るだろうか。
きっと怖くて、辛くて、寂しい。
独りじゃないのに独りな気がして、傍にいてやりたいのにきっと彼女の不安は俺じゃ拭えない。

こんな時死柄木ならどうするだろう。
荼毘なら、ミスターなら。
俺が冷静にならなきゃ行けないのに、どんどん焦ってしまう。
俺が仇討ちなんて出来るだろうか。
相打ちにすらならなかったら、コイツの傍にいてやることすら出来なくなってしまう。

どうしようもなく立ち上がろうとした、俺の手をナマエが弱々しく握った。

「ご、め…スピ…そばにいて……」

「っ、!」

「ス、スピ……?」

身体が勝手に動いてた。
ナマエを抱きしめて、グッと涙を堪えた。

「スピが居てくれて良かった」

なんでいつもお前はそうやって、俺の欲しい言葉を言ってくれるんだ。
涙を耐える身体が震えると、ナマエがより一層強く抱きしめた。

「……俺も…お前が居てくれて、よかった…」