悔しくて手が出てしまった

【爆豪勝己】

振り上げた手はブゥン!と音を立てて空を切った。
空ぶった腕が自分に当たって思ったよりも痛い。

「んなの当たんねぇよ」

勝己は鼻で笑うと再び揶揄った。
見上げられるぐらいの距離に居たのに、いつの間にか1人分程の距離。
そんなに殴られたくないなら言わなきゃいいのに、と私も私で相手にしなきゃいいのに。
頭の隅ではそんなこと思うけど、やっぱり聞き流せない。
キッと睨みつけると、舌を出してバカにした表情で中指立てられた。
やっぱり許せなくって、再び腕を振り上げた。
せめて一発で良いから、綺麗な色したあいつの頭を殴ってやりたい。

周りのみんなは、呆れた顔で私達を眺めている。
少しぐらい加勢してくれてもいいじゃないか。

「バクゴー素直になれよな…」

ボソリと何か聞こえてきたけど今はそれどころじゃない。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【上鳴電気】

思い切り後頭部にクリーンヒットした。

「ウェィ!?」

一瞬アホになった後

「いってぇ!そうやってすぐ手出す!暴力反対!」

そう言って大きな声で叫んだ。
元はと言えば上鳴がちょっかい出してきたんじゃないかと、言った所で口が上手い彼には敵わないだろう。
大した事じゃないのに聞き流せなかった事が悔しくて、なんだか今日はダメみたいだ。
少しずつ歪んでいく視界と、その異変に気付いた上鳴が目を見開いた。

「悪ぃって!ホントごめん!まぢゴメン!俺が言いすぎた!…だから泣かないで」

って思ったよりも慌てふためく彼を見て、思わず吹き出してしまった。
笑った拍子に頬をポロリと涙が伝えば、彼が少しだけ悲しそうに微笑んだ。

「そうそう、そうやって笑ってたら可愛いんだって」

その言い方に、なんだかムカつくからもう一度叩いた。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【死柄木弔】

いつもは優しいのに時々こうして揶揄ってくる弔くん。
さすがのボス相手でもムカつく時はムカつくし、嫌な時は嫌なのだ。
言い返せなくて咄嗟に出た平手打ちは、彼の手によってがっしりと掴まれてしまった。
手首を掴む三本の指に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
冷や汗が背中をツーッと伝っていく緊張感を、彼は知らずに私の手首をまじまじと見つめた。

「こんな細い腕で何ができるんだよ」

「…なんでもできるよ。人だって殺せるし、弔くんのことひっぱたくこともできるもん」

「…もっと食えよ」

今度は空いてた左手でお腹触ってきた。

「全体的に細すぎ」

パッと腹を撫でる手が離れたかと思えば、手首は掴んだまま彼が歩き出した。

「っちょ!」

「美味いもんでも食いに行こう…好きなの好きなだけ」

何を考えているか分からないが、ここは黙って着いて行った方が良さそうだ。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【荼毘】

言い方も表情も何一つ気遣いが見当たらないこの男には、毎度のように怒りを感じる。
いい加減シカトすることを覚えた私でも、前に立たれて揶揄われてしまえばスルーすることなんて出来ない。
あぁ言えばこう言うのだから、もうそれは暴力で解決するしかない。
グッと握った手で殴ろうとすれば、ヒラリとかわされてしまった。
殴られそうになったことの、何が面白いのか。
余計に楽しそうに笑う荼毘は、更に私との距離を詰めてきた。

「どうした、そんなにイライラして。生理か?」

ギリッと歯がなって、歯茎が少しだけ痛い。
構えてパンチ……すると見せかけてキックすればすんなり入ってしまった。
膝カックンのように一瞬だけガクンとして、見上げる私と数センチ。
グッと耐えて体制を直した荼毘と目が合った。
シューっと白い煙が立ったのに気づいた瞬間、猛ダッシュした。
ちらりと見た後ろには、青い炎がぼんやりと見えている。

誰かに助けを求めたがみんなが首を横に振り、見て見ぬふりをし始めた。
いつの間にか後ろにまで来ていた荼毘が後ろから両胸を鷲掴み、ガッシリと抱きしめられる形で捕まった。

「つーかまえた……で?何してくれんだよ?」

ピタリとくっついた背中から荼毘の心臓の鼓動が伝わる。

꙳ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ꙳

【Mr.コンプレス】

恥ずかしくて、身長差がある彼の胸元を何度も叩いた。

「もう最近ソレばっかり!いい加減やめてよ!」

結構強めに叩いてるのに本当に辞めてくれないし、叩いた振動で微かに揺れる体だけど体幹がいいのかビクともしない。

「はっはは〜、怒った顔も可愛いなぁ〜」

ほらまたそうやって揶揄ってくる。
マスクを取らなくても分かる、その下はきっと馬鹿みたいに笑っている。

腕を伸ばしてジャンプして、仮面を取ろうとしても上手くかわされる。
そのくせ両手を上に広げて『俺は一切触ってませんよ、セクハラされている側です』みたいなポーズ。

息が乱れているのは私だけで、1人だけ涼しい顔。
諦めてマスクを睨みつければ、今度は少しだけ屈んで子供みたいに抱っこされてしまった。

「ごめん、言いすぎた。機嫌直して?お姫様」

「やだ。そうやってまた子供扱いする」

何言われても許さないと決めて、そっぽを向く。
視界に入るよう手のひらを差し出されて、視線を落とせばそこにはお菓子が。
どれも私が美味しいと言ったものばかり。

「……あれ?食べないの?あーん、してあげようか?それとも口移しがいい?」

首の後ろに腕を回して、思いっきり頭突きしてやった。