怪我



「蛍、手当するから見せて」

彼の手を掴んで覗き込めば、彼が痛そうに眉間を寄せた。
小指と薬指の境目が裂けている。
ここでは応急処置程度しか出来ないことなど、本人だって知っているはずだ。
少し悩んだ結果、テーピングを手に取った。

「…戻るんでしょ」

「ッ!!……当たり前、デショ…ッ、」

「これ以上傷が酷くならないようにするから、我慢して」

テキパキとテーピングを施して、薬指と小指を一緒に固定した。
止血も十分に処置してあるし、これが彼の望む最前であると信じた。
手のひらを軽くグーパーと数回繰り返したあと、ゆっくりと彼が立ち上がった。

お礼も告げず歩き出すのはきっと、意識だけコートに置いてきてるからだ。
そんな彼の後ろを小走りで追いかけていく中、鼻の奥がツンとして視界が徐々に歪む。
本人を前にして、なんで私が泣くんだと。
頑張っているのは彼らであって、そんな彼らを不安にさせないよう、私たちマネージャーは強くあるべきなのに。

泣くな、泣くな、必死で言い聞かせる。
まだ試合は負けだと決まったわけじゃないだろう。
一生バレーが出来なくなる怪我を、彼が負ったわけじゃないだろう。
必死に痛みに耐え、バレーをする彼を見守るしか出来ない自分に、どうせなら痛みだけでも私が変わってあげれたならなんて。
本人が知ったら酷く嫌な顔をするだろう。
1粒でも零れたら、あとはとめどないそれを必死で耐える。

会場の入口が見えた瞬間、彼がピタリと止まった。
くるりとこちらを向いて、ため息を落とした。

「……なんで泣いてんの」

彼の言葉にハッとして頬を撫でれば、我慢してたはずの涙はとっくに頬を濡らしていた。

「っ、これは、違っ!」

私の事なんていいから早く行けと、彼を前に向かせようと押し返せば強引に抱きしめられた。
熱い体に汗で湿ったユニフォーム、それと汗の匂い。

「どうせなら最後まで強がりなよ。そんな顔してたら戻りにくいんだけど」

彼の嫌味ったらしい台詞が耳元で聞こえる。
それがやけに嬉しくて、心強くて更に涙腺は緩くなってしまう。
涙が止まらなくて何度も拭っては溢れ、彼のユニフォームをまた濡らしてしまう。
すこし離れた彼が、そっと屈んで目尻にキスを落とした。
びっくりして彼を見れば、真っ直ぐな瞳と目が合った。

「この後も泣くんだから、それまで取っておけば?」

ニヤリと笑って、テーピングの手をヒラヒラと振ってコートに戻って行った。