「あの、お願いしたいんですけど」
そう言って手を差し出したのはツッキーこと、月島蛍だった。
1番の長身でメガネに毒舌、煽りが大得意の今年の1年。
彼を表現するのにぴったりな言葉が浮かんで、構えた背筋がピンと伸びた。
「えっ、また、?!」
「はい」
「な、なんで私ばっかりなの!?」
テーピングなら潔子先輩が上手だよ、なんて先程までコートを眺めていた彼女を指刺せば、抱えたバインダーと睨めっこ。
それならやっちゃん!と慌てて探すも、隣にいたはずの彼女も走り去ってしまった。
目が合った日向がこちらに気付いて駆け寄るが、何故か澤村先輩に首根っこを掴まれて連れていかれてしまうし。
明らかに周りからの見て見ぬふりに、違和感を感じ眉を顰めた。
「暇そうなの先輩だけですよ」
催促するような彼の言葉で我に返り、仕方なく救急箱を開いた。
どうせ出来上がったテーピングを見て、不満そうな顔で
「先輩ってホントに不器用ですね」って言うくせに。
突き指をする度に、毎回私のところに来るのは何故なんだろう。
眉間にしわ寄せて、彼の指先にテーピングを巻き付けていく。
「先輩なんか変えました?」
「ん、…え?」
「いつもと匂いが違うんで」
「あ、えっと、シャンプー変え、ました……」
何だか恥ずかしくて、手元が狂う。
多めに出しすぎたテーピングがベタベタとくっついてしまった。
見下ろされた視線が、ツムジに集まってる気がして熱くなっていく。
あぁ、また失敗した……やり直しだ。
「ぷっ、動揺しすぎ」
「なっ!誰のせいだと思ってんのよ」
「あぁ、僕のせいですかスミマセン」
明らかな棒読みと愛想笑いに、恥ずかしさよりも苛立ちを覚えた。
きっとみるみるうちに不機嫌になっていく私の顔を見て、馬鹿にするように笑っているだろう。
何度も巻き直したテーピングの端が、ぐしゃりとシワが寄ってしまった。
もう知るもんか。このまま練習に戻れば良い、と乱暴に貼り終えた。
「嫌いじゃないですよ」
「、ぇ?」
テーピングが施された手を数回握るように確認したあと、こちらを向いた彼と目が合った。
「歪なテーピングも、新しい先輩の匂いも」
「あぁ!月島がちょっかい出し、ッ痛ってぇー!!」
「やめろ!!日向!!」
「はぁ……ホント空気読めないやつ」
ムッとした彼がコートに戻って行った。