なんやかんや色々あって遠回りはしたけれど、不死川玄弥。
初めての彼女が出来ました。
そりゃぁもう、可愛くて可愛くて堪らない。
いつだっていい匂いがするし、肌も白くて抱き締めたら折れてしまいそう。
瞳だって大きくて、唇だって血色が良くて柔らかい。
知ったような口振りで話しているが実際の所、手すら握った事が無い。
いつだったか善逸が「緊張すると口が臭くなるらしい」そう言っていたのをふと思い出した。
あの時はまた馬鹿なことを言っていると思ってたけど、アレが事実だとしたら大変なことになると思った。
夜な夜な家の近くのコンビニまでひとっ走りして買ってきたのはフリスク。
と、ジャンプとコンドーム。
備えあれば憂いなしって昔から言うぐらいだし、コンドームの一個や二個。
いや五個や六個ぐらい用意しとくのが男のマナーってもんだと、自分に言い聞かせてる間に朝になってた。
床に転がったジャンプの表紙は、一昨日買ってきたやつと同じ表紙だった。
「おはよう、眠そうだね」
肩の少し下の方をトンっと押されて振り向けば、そこに居たのは愛しの彼女。
「お、おはよ。なんか昨日寝付き悪くて」
「またゲーム?起きてたなら電話でもくれたら良かったのに」
寝付くまで付き合ったよ?なんて言って、教室に入っていく彼女を見てため息が零れた。
そんなのしてたら余計に寝れるわけない。
「ぎゃははは!チキン〜!!」
案の定、昼飯を共にした善逸からは大笑いされ、伊之助からは馬鹿にしたように鼻で笑われた。
炭治郎だけは「玄弥を臭いと思ったことはないよ」と、励まされた。
そんな炭治郎の真っ直ぐな眼差しが、逆に俺を不安にさせることを彼は知らない。
それから毎日、俺はフリスクを食べ続けた。
いつなんどき、彼女とキスするタイミングが訪れるなんて分からなかった。
片手でサッと取り出して食べれるようにもなった。
家の近くのコンビニに行けば、レジ横にフリスクが置かれるようにもなった。
「ねぇ、また食べてるの?」
彼女が少しだけ不機嫌そうにそう言ってきた。
「んー。なんか癖になってるっぽい」
もしかして食べたかったのかと、ポッケから取りだしたフリスクを彼女に差し出した。
「いる?」
「……いらない」
今度はあからさまに唇を尖らせ、彼女が少し速度を上げて歩き出した。
は……?何に対して怒ってるのまったく分からない。
俺なんかしたっけ、そう思いつつ彼女の後を追いかける。
俺よりも全然ちっこい彼女を追いかけるのは、とても簡単だった。
「なんだよ、どうした」
そう言って腕を掴んだ。
それでも足を止めないから、少し強く引けば彼女が大人しくなった。
「ごめんて。言ってくれないとわかんねぇ」
俯かれたら余計に顔が見えない。
喧嘩なんてしたくないし、そもそもこれが喧嘩なのかすらわかんないほど経験値が低い俺。
とにかく家まではもう少しだし、仲直りしないまんまでサヨナラなんて絶対嫌だった。
「……したい……」
「ん?悪ぃ、もう1回言って、?」
勢いよく顔を上げた彼女が、少し声を張り上げた。
「だから、っ!チューしたい、って言ってんの!」
「……!は、ぁ、え……!」
「いっつも食べてるじゃん、朝もお昼もバイバイするときも!」
みるみるうちに上がる心拍数と、勝手に吊り上がってくる口角。
咄嗟に隠そうと思って口元を抑えれば、それに気付いた彼女が今度は泣きそうな顔になった。
やばいと思って、口に入れたばかりのフリスクを思い切り飲み込んだ。
「んぁ!」
大きく口を開いて、何も食べてないアピール。
とんでもなくマヌケな顔だったに違いない。
ポカンとした彼女が、しばらくして笑った。
それを見て安心した後、もう一度彼女に「ごめん」と呟いた。
裾を控えめに引っ張った合図で屈めば、彼女の手が頬に伸びてきた。