「それじゃあ買い出しに行きますよ!」
「お前が一人で行ってくれば済む話だろうが」
「なんだクロコちゃん、おれと離れるのが寂しいか?」
「……行くぞ、なまえ」

ドフラミンゴさんの発言によりクロコダイル社長の参加が決定した。
社長を先に外に出して、私も軽く身支度を整えて靴を履いているとどうやらドフラミンゴさんもついてくるらしくクローゼットから上着を引っ張り出している。

「え、それ着てくんですか?」
「悪ィか?」
「…………」

寒くない時期にも関わらず派手なピンク色のコートを羽織ったドフラミンゴさんを不満げに見つめる。できれば知り合いだと思われたくない。
そんな私の心境を知ってか知らずかドフラミンゴさんは独りでに笑ってから、さっさと外に出ろと追いやるので全てを諦めて部屋の外に出た。



エレベーターで下に降りようとすると我先にとクロコダイルさんとドフラミンゴさんが乗り込み、大きな体格の二人を乗せたエレベーターはいっぱいになってしまう。
二人は私を無視して狭いだとか降りろだとか言い合いを初めてしまって話にならない。
ぎゅうぎゅう詰めになってでも乗るべきかとエレベーターの前で考えていると、クロコダイルさんが私を見て口を開く。

「なまえ、お前は階段を使え」

そう言ってエレベーターの扉を閉めるクロコダイルさんを私は覇気のない顔で見送るしかなかった。



思わずしばらくの間エレベーターの前で立ち尽くしてしまったけど、ハッと我に帰り急いで階段を駆け下りる。下で待たせると文句を言われてしまう。
七階分の階段を必死で降りた先にはクロコダイルさんとドフラミンゴさんが立っていた。

「遅せェ」
「階段なんだからしょうがないじゃないですか……!少しはこの労力を認めてくれたって……」
「クハハ、結果が全てだ。それにお前、面接で体力には自信があるとか言ったそうじゃねェか」

肩で息をしながら語気を強めると、思いやりの欠片もない言葉が返ってきて目眩がしそうになる。
自信があると言ったのは事実だけどこんなのは想定外すぎる。
やっぱり辞めるべきなんだろうか。そう頭によぎるが、ここで辞めるのはなんだか悔しい。せめて社長に一矢報いてから辞めたい。
そう決意してその方法をあれやこれやと考えているとクロコダイルさんに声をかけられる。

「おい、タクシーでもなんでもいいから車を用意しろ」
「甘えたこと言わないでください、すぐそこですから!歩いて行くんですよ!」

どうせこの人達はスーパーで自ら買い物なんてしないんだろう。場所すらわかってないに違いない。
二人は私の徒歩宣言に不満そうな顔をするが、先導すればしょうがなくあとをついてきた。

「何か食べたいものとかあります?」

歩きながらクロコダイルさんとドフラミンゴさんに問いかける。二人は一度お互いの顔を見てから私に向き直ると、
「なんでもいい」
と口を揃えて言った。

「なんでもいいって、なんかこう、ないんですか。カレーとかハンバーグとか……」
「どっちも気分じゃねェ」
「おれも」

なんでもよくないじゃないか!
気分じゃないと顰め面をする社長にため息が出てくる。まったく面倒くさい人達だ。

「とりあえず、ついてから決めましょう……」

一人で行ったほうがよかったんじゃないかと思い直しながら、私は二人を連れて近所にあるスーパーへと向かった。



三人で店内に入ると、軽快な音楽がどこからともなく聞こえてくる。
慣れた手つきでカゴをカートに乗せるとそれを押しながらまずは野菜コーナーに足を進めた。

「お二人共、ちゃんと栄養とか摂ってるんですか?」
「…………」
「…………」

二人は、「栄養?なにそれ」みたいな顔で私を見てくる。
ドフラミンゴさんはどうだか知らないけど、社長は普段会食ばかりで普通の食事をしているところを見たことがない。まあ、私よりもいいものを食べてるに違いないんだろうけど。
いつも顔色の悪いクロコダイルさんを見てると少し心配になるのも事実だった。

人参や玉ねぎなんかの定番の野菜をカゴに入れていく。野菜の状態を見比べてどれにしようかなんて考えていると、す、とカゴの中にトマトが放られた。クロコダイルさんの仕業だった。

「……好きなんですか?トマト」
「あァ」

軽い返事だけをして肉売り場へと行ってしまう社長に辟易とする。まあ、どうせお金を払うのはクロコダイルさんだ。たぶん。
やけになって使えそうな食材をカゴに入れながら、ドフラミンゴさんの好きな食べ物はなんなのだろうと振り返るけどそこにドフラミンゴさんの姿はなかった。

「え、ドフラミンゴさんは!?」

辺りを見渡しても見つからない。もはや二人の子供を連れた母親の気分になってくる。覚悟はしていたけど二人とも勝手すぎる。
見つけたらちゃんと注意しなきゃ。いや、あの人はそんなの聞いてなんてくれないだろう。
私は今日何度目かわからないため息をついた。



ドフラミンゴさんを探しつつ肉売り場に行くと、お肉が並んだショーケースをじっ、と眺める社長がいた。

「社長!ドフラミンゴさんが消えました……!」
「ほっとけ」
「ええぇ……」

クロコダイルさんは驚きもせずただ売り場を見て視線を動かすだけだった。
ほっとけと言われても、お店やお客さんに迷惑をかけないかと不安になってしまうのはしょうがないことだろう。
それにしても。

「何か探してるんですか?」
「……ワニ肉がねェ」
「普通のスーパーじゃワニ肉なんて置いてないですよ」
「使えねェな」

小さく舌打ちをしたクロコダイルさんは興味をなくしたのかつまらなそうにそっぽを向いてしまう。

「ほ、ほら、この牛肉とか美味しそうじゃないですか?」
「サシが多すぎる」

ああもう、面倒くさい。それでもこれ以上クロコダイルさんの機嫌を損ねると更に面倒なことになるから言い返すことはしなかった。



クロコダイルさんを連れて必要そうな調味料カゴに入れていくと既にカゴの中身はいっぱいだ。
各コーナーを周りながらカートを押していると、ふと視界の端にピンク色が移った気がして通り過ぎた売り場を少し戻る。そうするとお菓子売り場にドフラミンゴさんがしゃがみこんでいた。

「こんなところに……!勝手にいなくならないでください!」
「これ凄くねェか?」
「え、どれです?」

私の注意を案の定無視したドフラミンゴさんに差し出されたのは、グミでお寿司を再現するタイプの知育菓子だった。パッケージにはポップな字体で『お寿司やさんになろう!』と書かれている。
よく見るとドフラミンゴさんの傍らには似たような知育菓子がたくさん積み上げられていた。
ドフラミンゴさんはお菓子を持って立ち上がると、それをカゴに入れようとしてくるので両手で防いで阻止をする。

「お菓子は一つまでですよ!」
「ケチなこと言うんじゃねェよ。どうせワニ野郎が払うだろ」
「てめェの分まで払うわけねェだろうが」

クロコダイルさんはそう言ってドフラミンゴさんのスネを足で小突いた。

「なまえ、フラミンゴ野郎の分以外はこれで払っとけ。おれは葉巻を吸いに行く」

クロコダイルさんはクレジットカードを手渡してくると足早に喫煙所に行ってしまう。
ぶ、ブラックカードだ……。
間違えてなくしてしまわないように大事にポケットにしまい込んだ。
ドフラミンゴさんは不服そうな顔をして、菓子の中から私に見せてきた知育菓子だけを持って戻ってくる。なんかかわいそうだからこれは一緒に買ってあげよう。
知育菓子を受け取りカゴに入れてあげると、ドフラミンゴさんにいきなり肩を引き寄せられた。

「なァなまえ、ケチャップ買おうぜ」
「好きなんですか?」
「フッフッフッ、クロコダイルの嫌いな食べ物だ」
「買いましょう!!」

私の目はいたく輝いていたことだろう。これくらいの仕返しは許してほしい。あと、ドフラミンゴさんには早く離れて欲しい。周りのお客さんの視線が痛いから。



クロコダイルさんがいないのをいいことに、ケチャップの他にも色々な食材をカゴに詰めてレジに向かう。
自分で買い物する時には見たこともない金額がモニターに出るけど気にしない。私にはクロコダイルさんから預かったブラックカードがあるのだ。
人様のカードで勝手にブルジョア気分を味わいながら会計を済ませると、台にカゴを乗せて袋詰めをしていく。
ドフラミンゴさんは手伝う気など更々ないのか素早くバーコードを読み取っていく店員さんを面白そうに見ていた。
全ての食品を袋に入れ終わったところで、見計らったようにクロコダイルさんが戻ってくる。

「終わったみてェだな。帰るぞ」
「はーい。ドフラミンゴさん、行きますよー」
「あァ」

二人はさっさとお店を出て行こうとするのでそれに続こうとするけど、台の上に残るぱんぱんになったレジ袋二つ分を見て私は愕然とした。

「……え、これ全部私が持つんですか!?」
「当然だろ」
「あ、あの……タクシー、とか……」
「お前が歩くっつったんだろ、甘えんじゃねェ」

ずっしりとした重みのある二つの袋を両手にさげ、私は必死に二人の背中を追うしかなかった。




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