夏休みに入り、数日が経過したある日のこと。急遽入った雑誌の撮影に向かう為、私はマネージャーが運転する車の後部座席に乗っていた。特にすることもなかったので、適当に携帯を弄っていると一通のメールが届いた。



 差出人は幼馴染みの英智からだった。その名前を見るだけで思わず頬がゆるゆると緩みそうになる。別に毎日メールのやり取りはしてるし、珍しいことではないのだが、長年想いを寄せている英智からメールが来る。それだけで私は幸せを心から感じられるのだ。本人にはからかわれそうだから絶対に言わないけども。



 さて、そんな彼から一体どの様な用件が送られてきたのだろう。もしかしてデートの誘いなのでは、なんて期待を抱いたが私と英智は付き合ってないのであり得ない。そもそもお互いアイドル同士の身であり、デートなんてしたら先ずスキャンダルの餌食にされるのが落ち。それによって退院したばかりの英智に更なる負担が掛かったら…想像するだけで心臓が潰されそうになる。

 だから英智に自分の想いを告げるなんて迷惑なこともしない。それは向こうもきっと分かってる。お互いの為にも、これでいいんだ。と、毎日の様に自分に言い聞かせてる約束を胸に刻み、いざメールを開く。



 内容はこうだった。



『やぁ、はる。今は移動中かな?実は今度の日曜日にfineのみんなと僕の別荘でバーベキューをするんだけど、はるも一緒においで。確かその日は仕事もなかったよね?断る理由もないと思うから、はいって言う返事を待ってるよ』



「…………………」



 この有無を言わせない威圧感を文章から感じ取れるから英智は本当に恐ろしい。そこにも惚れてるんだけど。

 確かにその日は仕事もなく用事も特になかった。が、彼は一体いつ私のスケジュールを把握していたんだろう。びっくりするよりも不思議な気持ちが勝っていた。それにしても、バーベキューなんて珍しい。渉か桃李辺りが騒いだのだろうか。あの二人なら絶対そうに違いない。英智自身がバーベキューをしたいなんて口にする訳…いやあり得そうかも。

 ああ見えて結構庶民的なことに興味ある男だし、長く入院していた分、今年は色んなことがしたいのかもしれない。

 正直な話、私も英智と出掛けたい気持ちがあったから誘ってもらえて良かった。二人きりじゃないけど、カメラから免れるし、肉も食べれるし、メールの文章通り断る理由は何もないので私は意気揚々に『はい』と一言打ち込み返信をする。流石に従順過ぎな返事かな、と思いつつそれ以外に言葉がないので気にすることをやめた。だって、英智がそう言えってメールで言うから従ったまでであり、別に適当に返したら何かされそうとか思ったわけじゃないから。そう必死に自分に言い聞かせる。

 ふと携帯に向けていた視線を窓の外の方へ移すと、まだ現場ではない景色が視界に映り、マネージャーに聞けばもう30分で到着するとのこと。ならばと私は開いていた携帯を閉じ、仮眠を取ることに決めた。

(起きたらなんか返事あるかなあ)




(150901)
ALICE+