優しい指
手が好き。とそう言われた。
読んでいた本を指を挟んで閉じて、ん? と顔を傾ける。
「格好いい、貴方の手」
俺は柄にも無く少し照れて微笑んだ。
「格好いい? 肉体労働で硬くなってゴツゴツに節くれ立った俺のこの手が?」
栞を挟んで本を脇に置き、両手に目を落とす。
莉子は大きく頷いた。
「だから格好いいの。それに……凄く優しい指をしてる」
莉子の使う表現はこうして時たま、比喩的だ。
文系だから詩人的なのか。
俺は苦笑した。
「この浮き出た筋も好き」
そう呟きながら、血管の筋を指で撫でて来る。
擽ったい。
俺はされるがままに大人しくしていた。
「爪の形も」
好き。そう言う莉子の唇の方が可愛い、口付けたい。
そんな事を考えているのは内緒。
「俺は莉子、お前の手の方が格好いいと思うし、好きだけどな」
莉子はキョトンと目を見開いた。
「私の手が格好いい? 小さくて赤ちゃんみたいな手っては良く言われるけど、格好いいなんて初めて言われたわよ」
綺麗に手入れがされ、透明のマニキュアの塗られた手を俺は優しく取った。
「子供達を抱っこしたり頭を撫でたり、ピアノを弾いたり、工作をしたり。莉子の手は器用で、子供達から愛されている格好いい手」
指先に軽く口付けると、サッと一瞬にして両頬が林檎になった。
はは。全く可愛い奴。
「もう。秋人はいつもそうやってからかうんだから」
「心外だな。からかってないよ。本心」
クスクスと喉の奥で笑いながら、照れてそっぽを向く莉子の頬を指でつつく。
開け放した窓から初夏の柔らかな風が入り込み、カーテンを揺らした。
幸せだな。
俺は莉子の腰を引き寄せながら、初夏の空気を思いきり吸い込んで目を閉じた。
2015/6/19