冷たい風が頬を撫でる。
髪を宙に踊らせては幾つも通り過ぎた。
「……近いな」
男は呟いた。声が喉奥に絡み、掠れていた。
その直後、前方のビル群の裏手から突如として爆発音が響いた。小刻みの地揺れが起こり、男の立つ建物も小さく揺れる。
爆発音と共に黒煙が灰色の上空へと立ち昇り、幾つもの悲鳴が聞こえて来た。
「妖気の比率は100パーセントです。ガイシ通り二番街、此処より300メートル」
カツン、ヒールが剥き出しのコンクリート床を踏む音が響き、男の背後に女が控えて立つ。
女性にしてはやや低めの声音だった。
「そうか」
男は瞼を閉じた。
「民間人は」
「救出隊が出動しました。ですが……」
報告をする抑揚のない女の声音に一瞬の淀みが生じた。
男は瞼を開けて、チラリと背後に視線を向ける。
「どうした」
「第二分隊からの通信が突如として途絶えました」
再び風が通り抜ける。黒煙のきな臭い匂いの混じった冷たい風だった。
「如何なさいますか。エルダム・E・クラバイン」
男──エルダムは視線を前方の町並みに移した。
「……俺が行く」
女は軽く頭を下げた。
「畏まりました」