「名前さん、甘い物はお好きですか?」

「安室さん、こんにちは。えぇ、甘い物は好きですよ?」


図書館で今日の課題を片付けていると、後ろから一つ年上のレイブンクロー生の安室さんに声をかけられた。

安室さんはほぼ毎日と言っていいほど、私に何かをくれる。
それは甘いお菓子であったり、羽ペンや羊皮紙であったりと、断れない微妙な範囲の物をたくさんくれる。
私自身嬉しかったが、しかし申し訳なさの方が大きい訳で。

安室さんが嬉しそうにりゅんりゅんしながら、懐から小さめの箱を取り出す。
綺麗に包装されたそれには、いくら貧乏人な私と言えど、見覚えがある物だった。


「う、受け取れません!!」

「大丈夫大丈夫、そんな高い物じゃないよ」

「いや私からしたら充分高いのですが…」


出てきたのは何とびっくり。
前に日刊予言者新聞で見た有名なチョコレート職人が作った、新作チョコレートだった。

やはり高い物じゃないというのは嘘だ。
新聞でも見たが自分の家の貯金の三分の一くらいを掻っ攫っていくくらいの値段だったはずだ。
安室が箱の蓋をゆっくりと開けるのを、まじまじと見てしまう。

エメラルド色の包装紙から、真っ赤なリボンが解かれて行く。
こんな高級なチョコレート、普段お目にかかれるものではない。
今の内にしっかりと頭の中に焼き付けておかねば。

四角や丸や三角と、色々な形をしたチョ
コレート達が私のお腹の虫を刺激する。
匂いだけでお腹いっぱいだ。やはり高級チョコレート、匂いから違う。
その様子を見ていた安室さんはくすりと笑うと、チョコレートを一粒取り呆気に取られていた私の口の中にそれを詰め込んだ。


「っ……!?」

「ほら美味しいですから、……ね?」

「美味しい……です……」


口内の中で広がるほのかなほろ苦さに、優しく絡まる甘さ。
魔法がかけられているらしく、くるくると味が変わっていく。口元に手を当てながら、飲み込んだチョコレートの後味を味わった。


「まだ沢山ありますからね、ほらあーん」

「……ぁーん……」

「フフ……」

「何で笑うんですか……」


照れ隠しに軽く睨めば、一層彼は笑った。
頬杖をつき、私の髪の毛を一房指に絡める。
人があまりいない時間帯で本当に良かった。
こんな所を他の生徒に見られてしまっては、公開処刑も良い所だ。

何ですか、私がチョコ食べるのそんなに面白いですか。
微笑みながら私の口の中にまたチョコレートを詰め込む。
チョコレートの甘さが、まるで安室さんがくれる優しさのように感じて。

チョコレートが溶け、喉を通り身体の中に入って行く。
彼の全てを受け入れたような気がして、小っ恥ずかしくなった。
それに気づいたらしく、安室さんは悪戯っぽい笑みになり、私の頭を撫でた。




チョコレートよりも甘い彼。


(まだたくさん家にあるから明日も持ってきますね?)

(え、申し訳ないですよ私の家の持ち金でも足りない値段なのに……!)

(名前さんの生活事情がますます心配になりました……)
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餌付け(安室透の場合)