「私は貴方達の事、未来、過去を全て知ってるのよ」
「……」
空気がキンと張り詰め、マイナスレベルにまで凍りついた気がした。
私はキッチンでコーヒーを入れているから、赤井さんやコナン君、彼女の姿が見えないが、きっと二人は頭の中をフル回転させて彼女を疑っているだろう。
私はカップにコーヒーを注ぐ。
「赤井秀一さんですよね?FBIの、ライってコードネームで組織に侵入してて」
「コナン君は工藤新一さんよね?蘭ちゃんが好きで、取引を見ていたら薬を飲まされてしまってさ」
朝突然彼女が工藤邸へと押しかけてきた。
私は姿を見ていないが、大きな音と赤井さん!と言う甲高い声が聞こえたので、思わず魔法を使い透視してしまった。
可愛らしい女の子だった。
そりゃあもう甘い匂いがしそうなふわふわな髪の毛をした目が大きな女の子。
ドアを開けた瞬間赤井さん!と叫んだから、彼女は彼らの事を知っていると、反射的に私と同じ境遇なのだろうと思った。
しかし私は魔女であの子はマグルだったから、魔法使いがいない違う時空から来たのだろう。
共通点と言えば、彼女の時空でも"コナン"という作品があった事か。
ただ知っている事をやたらと話しているのは如何なものか。
お話が崩壊しかねないし、自分の事を知らない人間が知っていたら普通は気味悪いと思うはず。
これは所謂夢小説で言う悪女という人か……?
なにこの展開ファンタジーすぎない?
軽くため息をつきながら、私は盆に彼らの分のコーヒーを乗せ修羅場と化しているであろうリビングへと向かった。
「コーヒーお持ちしまし……どうしました?」
騎士団と闇陣営の二重スパイで培ってきた演技に心から感謝した。
赤井さんとコナン君は険しいを通り越して犯人を探る時の顔をしているし、対して彼女と言ったら赤井さんとコナン君に疑われている事なんてまるで気付かず、突然現れた私を睨みつけ敵意を剥き出しにした。
「……貴女は……?」
「あ、私はこの工藤邸に居候させてもらっている身の者です」
「名前はよ!?」
「名字名前です」
「貴女は誰!?工藤邸には赤井さんしか住んでいないはずよ!?」
私だってここに住む事になるなんて思わなかったわ。と心の中で少しだけ毒づく。
とりあえず彼女がトリップしてきた一般人だという事は分かった。
分からないのは何故彼女がこんなにも情報を喋ってしまうのか、だ。
それよりも……。
「……赤井さんとは誰の事でしょうか?それよりも彼女は……?」
私はあくまで知らない、という設定にしておいた。
魔法が使えるという事はコナン君と赤井さん、安室さん以外は知らない。
彼らからしたら、私はもうとっくに透視か何かをして彼女の事を"知っている"という事を"知っている"が、彼女は"知らない。"
彼らもそれを知っているから、会話に普通に合わせてくれた。
「僕にも何が何だかさっぱりです……。彼女は昨日、ポアロにいた所を保護されたようです」
「では何故今ここに……?」
ポアロにいた所をコナン君が保護してどこかに泊めたか……?
そして朝ここに来たということか……。
「いや、突然朝入ってきましてね……驚きました」
「へぇ……」
コナン君の話も聞けば、コナン君は昨日の昼ポアロを利用していたら、彼女が来たと。
そして彼女は安室さんを見た途端彼の名を叫び抱き、何を思ったか彼女、ゼロだの零だの言い出したそう。
その後安室さんが丸め込み、無理矢理の形でコナン君が引き取り博士の家で一晩泊めたと言う。
ポアロにいたのを保護、その夜は一日誰かの家で預けられていた、次の日赤井さんの家に押し入った。
その事を考えると、ポアロに入るわ工藤邸に押し入るという事は安室さんと赤井さんが好きなキャラなのかな……。
す、好きなキャラなら余計関わっちゃだめでしょうが!!!!
秘密言っちゃあだめでしょうがお話崩壊すし疑われちゃうでしょうが!!!
堪らずツッコミをしたくなったが、耐えた。私偉い。
彼女の見た目からして若いし幼いし女子高生だろう。
まぁそこら辺は頭が回らないのは仕方が無いのかな……それに私は魔法界で一度戦争経験してるし……彼女の世界は秘密をバラしても対した事にならない世界なんだろうな……。平和かよ……。
私がカップをコナン君と赤井さんの前に置き彼らの話を聞いていると、彼女はそれが気に食わなかったようで。
私の背中を掴み、後ろに引いてきた。危ねぇなおい。
私はそのまま重力に従い、後ろに倒れかける。
コナン君はあからさま慌てて、沖矢さんは開眼しかけた。
私はあと一歩のところで尻餅をつくのを堪え、なんとか態勢を整えれた。
それでも彼女はお構い無し、自分の姿だけを見てとばかりに私を背の後ろで覆い隠し、前屈みになり沖矢さんとコナン君にまた何かを訴えた。
「赤井さんでしょう!?私知ってるのよ!!」
「僕は沖矢昴ですが……」
「変声機で声を変えたって無駄よ!私には分かるの!だって私貴方の事大好きだもの!」
おおっふ、意外と彼女積極的ね。お姉さんびっくりだわ。
起き上がり転がっていった盆を回収し、呆れを通り越して尊敬しそうだよ。
とりあえず私がここにいるべきではない気がした。
さっきのようにまたはね飛ばされて彼らに迷惑をかけてはならない。
「では私はもう一杯入れてきますね、お嬢さん、コーヒーにしますか?」
「私コーヒーは嫌いなの!紅茶のローズティーが良いわ!ガラスのポットとカップに入ったやつよ!」
「分かりました」
少し茶化すように質問すれば彼女はやはり憤った。
この子、若い。うん。
私はパタパタとスリッパを鳴らしながら小走りでキッチンへと入った。
ローズティーなんて無いぞ……?
ガラスのポットもカップはギリギリあったとしてもローズティーなんて無いぞ……?
こりゃあ困った。無いからと他の紅茶の葉を使っても、彼女の先ほどの態度からしてだめだろう。
それならば。
「ちょっとズルしちゃえ……」
エプロンのポケットから、杖を取り出し振る。
次の瞬間には銀の細かい装飾が施された盆の上に、ローズティーが入ったガラスのポットにカップが乗せられていた。
ローズティーにはご丁寧に薔薇の花をそのまま一つ入れる。
魔法はこういう時は便利だ。自分のイメージしたものがすぐに出来上がる。
そういえばこうしてダンブルドアにも紅茶を用意したなぁと懐かしさに耽った。
後は紅茶が出来上がる時間くらいまで待てば良いだろう。
魔法なら一分もしないでできるが、手作業だとそうもいかない。
あと十分くらいは待機していないとだめだろう。
私ははすっかり手持ち無沙汰になり、暇をしていた。
どうせなら棚の中にあったクッキーも持っていこう。
ガラスの皿を用意し、クッキーを何枚か広げようとした時。
彼女の高い声が響いた。
「安室さんがこちらに来てくれるの!?」
ななななななな何だって!?!?
思わず魔法で盗聴を始めてしまった。
一緒に脳内に彼らの映像も流し込めば、盗撮と盗聴を同時並行する始末になってしまった。仕方ない今は緊急だ。
コナン君が携帯で誰かに連絡を……?赤井さんはいないな……別室かな……?
彼女はコナン君の隣……さっき赤井さんが座っていた場所に座ってる……。
わぁおコーヒー嫌いって言ってた割に赤井さんが飲んでたコーヒー飲んでるやぁ……。
若干引きつつも、ローズティーを魔法で保温しながら盗撮と盗聴を続ける。するとインターホンが鳴り、安室さんではなく目暮警部達が来た。
まぁそっちの方が妥当よね……。
彼女はあからさまがっかりしていた。
顔がもうそれはそれは酷く歪んでいた。
いや目暮警部めっちゃかっこいいからね!?何でそんなにがっかりしてるのよ佐藤刑事めっちゃ美人じゃないか良いなぁ私も会いたい!!!!
心の中で叫びながら、私はキッチンを飛び出し目暮警部らに飛びつきたい気持ちを抑えた。
ほんともう佐藤刑事クンカクンカしたいやばいかわいい。
彼女はこちらまで聞こえるくらいの大声で叫びながら、パトカーに乗せられ連行された。まぁそりゃあな。
彼女程度の子なら警察で十分だろう。わざわざ公安が出てくるまでもない。
まぁ私の場合幸運か不運か、安室さんが来てしまったけれど。
さてそろそろ私は行くか。
「お待たせしまし……あれコナン君彼女は?」
「警察に引き取ってもらったよ」
「あら……ローズティー頑張ったんだけどな……」
「名前さんが飲んだら?」
「それは良いわね、コナン君も飲む?」
「いや、今はちょっと疲れたからいいや……」
「お疲れ様」
フフと悪戯気味に微笑めば、彼はまさかと目を見開いた。
「見てたの……!?」
「まぁ、ちょっとね」
(そういえば赤井さんは?)
(赤井さんなら寝室だよ。上手く言って逃げた)
(コナン君そんな顔しないの……)
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