甘ったるい匂いに顔をしかめた。
わたしの部屋はチョコの甘い匂いで埋め尽くされている。その理由は三十路を過ぎたおっさんにあった。

一昨日のバレンタインデー。
日本では好きな人にチョコをプレゼントするのよ。と外国と少し違うバレンタインデーについて、やや独り言のようにベルナルドに話してしまったのが原因だった。

2月14日。
わたしの国の風習にならって、ベルナルドはチョコを渡してくれた。それも結構なお値段が張るやつを。
普通は一つだけで十分なのに、「チョコ一つなんて、俺のハニーに対する愛情にしては小さすぎるよ!」とかなんとかクサイ台詞を吐いて、そりゃもうどっさりと大量のチョコを渡された。一日じゃあとてもとても食べきれないほど。
ベルナルドがせっかく買ってきてくれたものだからなんだか捨てるのが忍びなくて、ちまちまと食べていたけれどさすがに二日もずーっと食べていると飽きはじめてきた。甘いものじゃなくて、酸っぱいものが食べたい!…そう、梅干しみたいな。思い出しただけで唾液が溢れてくる!
しかもチョコのお陰で顔にニキビが出来てきたり、甘いものはストレスを感じてるときに食べるといいとか聞くけど、逆にストレスを感じてきた。

衝動的にキッチンに立つ。
ベルナルドにもらったチョコを全て湯煎して、溶かして液体状にしてしまった。さよなら高級チョコ!
ホイップクリームを混ぜてチョコホイップクリームにする。そしてパイ皿に盛り合わせると完成だ。
急いでベルナルドを探して部屋を駆け回る。ベルナルドの部下を見つけたので聞いてみるとジャンの部屋にいるらしい。部下はわたしの形相におろおろとしていたけど、ありがとうと言ってすぐに別れてジャンの部屋に向かった。


「ベルナルドー!」

扉を勢い良く開けて、緑髪にターゲットをロックする。
えいっとパイ皿をベルナルドの顔に投げると滑らかな軌道で直撃した。

「な、何の真似だい…ハニー…?」

ぼたぼたと床に落ちていくチョコホイップクリームは高級そうな絨毯を汚していく。ジャンが何か叫んでいたような気がしたけどスルーした。
わたしは口角を上げて、スッキリした、と笑う。

「チョコなんて一つでいいの!」

呆然としているベルナルドに服が汚れるのも構わずに抱きついて、ベルナルドの口唇周りのチョコを舐めてからそこに噛り付いた。

「わたしはベルナルドが好きなんだから、ちっぽけなものでもそこに気持ちがあればいいの!」

口唇を離し、叫ぶように伝える。「ヒュー、よくやるねぇ」とジャンが目を丸くしていた。
ジャンがいたことを忘れていてわたしはいまさら恥ずかしくなった。

「ハ、ハニィィィ!…愛してる!」

ぎゅっと抱き締めるベルナルドに、「まだ液体になったチョコが余ってるんだから、ベルナルドも食べてよね!」わたしは口唇を尖らせて言う。
それにしても、見事にチョコまみれになったものだとベルナルドの姿を見て笑いが止まらなくなった。

2010.02.16