「ハニー、お医者さんごっこしよう!」
白衣を身に纏い聴診器を首にかけて、31歳のおじさんは白い歯を輝かせながらきらきらとした笑顔を向け突然わたしに言いだした。
「な、何言ってんの変態。」勿論、そんなベルナルドにわたしはどん引きである。
「ワカメと昆布あげるから元に戻って下さいお願いします。」こんなのベルナルドじゃない、ベルナルドの皮を被った変態だ!必死に懇願するも、ベルナルドは照れるなよとわたしに近づいてくる。断じて照れてなどいない!
じりじりと近づいてくるベルナルドにわたしは後退をするが、壁際まで追い詰められがしりと両肩を掴まれる。
「診察を、始めようか。」
医者とは患者に安心出来るように努めるものではないのか。これではまるでホラーだ。
ベルナルドの息が荒いのは気のせいだと思いたかった、激しく。
「それじゃあ、服を脱ぎ脱ぎしようねぇ。」
ベルナルドはわたしのブラウスの釦に手を掛ける。
まてまてまて。危うく流されそうになってしまったけれど、なんで真っ昼間からこんなことをしなくちゃいけないんだ。子供に言い聞かせるような言葉にわたしを更にイラつかせる。
「わたしはいたって健康だから、医者にかかる必要はないです。」
「だるい、って言っていただろう?」
「それは腰が、ってアンタの所為でしょバカ!」
釦を外そうとする手を防いで思い切り睨む。
ベルナルドは加減を知らないのか、昨晩は本当に死ぬかと思った程なのだ。
「んんー」と何か考えるように顎に手を当て閃いたように手を打つ。
「じゃあおじさんを診察してくれるかい?」
ベルナルドの目は本気だった。本気と書いてマジと読むほどに。
聴診器をわたしの肩に掛けて、ベルナルドは自分でするすると服を脱いでいく。
「な!何してんの!」
「何って、ほら診察してくれるんだろ、センセ?」
ベルナルドは上半身をはだけさせたまま、わたしの耳に聴診器を優しく入れる。
「ほら、こうやって…。」低い声で囁かないで!顔に熱が集まってくるのが分かった。
ベルナルドはわたしの手の上にしなやかな手を被せて、聴診器の先を胸に当てる。わたしの耳にはベルナルドのドクドクと心臓の音が聞こえてきた。
「聞こえる?俺の音。」
「…早いわ。」
「ハニーを前にするといつもこうなんだよ。」
優しく笑ってベルナルドはわたしの肩口に顔を埋めた。暫くして肩口を啄むように口付けられる。するするとベルナルドの口唇がわたしの首、頬を撫でるように滑った。思わずわたしの熱い息が零れてしまう。
「ダメだ。」
「…、え?」
ベルナルドの呟く声に、夢見心地だったわたしは意識が削がれてしまった。聴診器を外され、今度はベルナルドが付ける。
「何?」と問い掛けると、衝撃的な答えが返ってきた。
「やっぱりハニーが患者じゃないとダメだ。王道の“それじゃあお注射しないと〜”の件が出来ないんだッ!」
「…最低!」
さっきの甘いムードはどこへやら。あのままだったら雰囲気に流されてもいいかな、と思っていたのにそんなことを考えていたベルナルドにとても呆れた。
「この変態ィィ!」
わたしはベルナルドの頬に真っ赤な紅葉を残して、叫びながら部屋を出ていく。
その叫び声にベルナルドを除くCR:5の幹部たちが「今度は何があったんだ」とわたしに呆れたように問い掛けてくるのは、日常の風景となりつつあるのだった。
2010.02.17