「ベルナルドってそういえば、昔軍隊に居たんだよね?」
「あ、あぁ。そうだが。」

ずっと書類に目を通しているだけだったので、私がこの静寂に耐えかねて、ふと昔に聞いたことをベルナルドに尋ねてみたらベルナルドは少し歯切れ悪そうに答えた。

「やっぱり軍服って着たの?」
「まぁ…。」
「…ジャジャーン!ベルナルドこれ何だと思う?」

一旦ペンを置いて、部屋の隅っこに置いていた紙袋を持ってくる。この為に用意していた紙袋の中身をベルナルドに見せる。私からベルナルドが受け取った紙袋には―。

「…軍服?」
「当たり!ベルナルドに似合うなぁと思って買ってきちゃったんだけど。…着てきてくれる?」
「あ、あぁ。」
「やっぱりイヤ?無理ならまぁしょうがないよね…。」
「昔のことを思い出しそうだけど―…いや、ハニーが喜んでくれるなら着てくるよ。待っててくれ。」
「…ありがとう!」

私の買ってきた軍服を見た瞬間、ベルナルドは顔をしかめた。もしかして何か、古傷に触れてしまっただろうかと私は焦ってしまった。けれど紙袋を持って部屋を出ていくベルナルド。自室に戻って着替えているのだろうか。
私は少し嬉しい気分で、「一旦ブレイクタイムかな。」と呟き、コーヒーを用意する。カップは私とベルナルドの二つ。熱い熱湯を注ぎ、片方は何も入れないブラック――もちろんベルナルドの。もう一方、私のはミルクとシュガーをふんだんに投入する。真っ黒いコーヒーとほんのり茶色く、白いコーヒーをテーブルに並べて、ベルナルドが来るのを待った。
数分後。ドアが音を立てて開く。目線を下げていた私は、ハッとドアを凝視した。

「どうかな、ハニー。」
「……ッ!」

軍服と言っても制服の様なものだけど、帽子を被ることによってよりドS度が増している気がする。当社比。…へたれおじさんのクセに、カッコいい!

「ハニー?」
「か、格好いいよ!はい、この鞭も持ってみて…ッ」

オプションとして買っていた鞭をベルナルドに持たせてみる。
緩めたネクタイに革の手袋。ベルナルドの身内以外に向ける鋭い視線を想像したら、なんだか見つめているだけでドキドキと心臓が高鳴った。

「ああハニー、鼻血が出ているよ。」

恍惚の瞳でベルナルドを見つめ続けていた。ベルナルドが切り出した言葉に、自分の鼻に手を当てると本当に鼻血が滴れていた。
ベルナルドの姿で鼻血を出すなんて!恥ずかしさが込み上げてくる。とりあえず手で鼻を覆い、洗面所に駆け込もうとしたらベルナルドに腕を捕まれ壁に押しつけられた。
覆っていた手を強引に退かして、私の頭の上で両腕を拘束する。

「なに?ベ、ベルナルドッ…。」

重力に従って徐々に鼻血が滴れてくるのが分かる。ベルナルドは私の瞳を見つめたまま。何がしたいのかとベルナルドを見返すと、ベルナルドの顔が近づいてくる。

「…!」

ぬるりとそれはざらついた感触。ベルナルドの舌で鼻血を舐められた、ということに気付いたのは数秒の間を置いてからだった。

「なッ、何してんの!」

わけの分からない羞恥に頬が染まる。よりによって鼻血を舐められるなんて経験は初めてだ。

「ん?ただハニーの鼻血を舐めただけさ。洋服に付きそうだったからね。」
「それは、ベルナルドが私の腕を―。」

白々しく言うベルナルドに私は反抗しようとするが、すぅっと細くなる瞳に口が自然と閉じた。背筋が歓喜に震えた。

「顔が真っ赤だよ。ハニーには…お仕置き、が必要かな。あぁそれもマゾヒストのハニーが喜ぶ材料になっちゃうのか。」
「…ッか、確信犯ッ!」

私がベルナルドが囁く低い声に弱いことを知っていてやっているんだから、質が悪い。
ベルナルドはにやりと笑って、一言。自身たっぷりに言うもんだから、私も開き直ってやった。ああ、私はもう大好きだよこいつが!

「ハハ、それでも俺のことを好きだろ。」

2010.04.09