今年の気候はどこかが可笑しかった。

ベルナルドが久しぶりに休暇を取ったので、久しぶりの外、カタギの世界で二人きりの時間を過ごしていた。
ここの所忙しい毎日が続いていて、久しぶりにまじまじと見るベルナルドの顔は、青いように感じた。

「私の希望どおり、ウィンドウショッピングでいいの?ベルナルド、疲れてそうだから部屋でゆっくりするのでも私は構わないんだけど」
「あぁ。最近ハニーに構っていられなかったからね。これくらいなんともないさ。ハニーの笑顔が見れればいいんだ」

私が心配するように声をかければ、ベルナルドは力なく笑った。
ひょろりと、例えればもやしのような不健康な人間を連れて私は騒げるはずもなく。
私はベルナルドの腕をひっぱって、近くにあるベンチに腰を下ろさせた。

「ハニー?」
「急遽予定変更。のんびり過ごすの」

私も隣に座って、ベルナルドの手を取り絡める。なんだか気恥ずかしくて視線がキョロキョロと忙しなく動く。ちら、とベルナルドを見たら目が合い、思わず二人して顔を見合わせて笑った。

手のひらが温かい。
このままで過ごすのも、心が温かくなるから良いかもと思った。


分厚い雲が青い空を覆う。
しばらくして、晴れていた空の雲行きが怪しくなってきた。
私は空を見上げながら、雨は降ってこないだろうと高を括っていたら。ぽつぽつと小雨が降ってきて、それは急激に激しさを増した。
徐々に深い色に変わっていく自分の服を見ながらベルナルドを見る。

「ハニー、行こう」

私はベルナルドに手を引かれて、水を跳ねとばしながら通りをかける。ちょっとした愛の逃避行のようだった。

雨宿りの場所を見つけると、私たちは上がった息を整える。ずぶ濡れになった服を絞ると、大量の水が地面に落ちた。水の所為で張りついた髪は鬱陶しい。

「ベルナルド、髪が―」

ベルナルドを一瞥すれば、ふわふわしていた髪はぺたんとおとなしくなっている。なんとなくベルナルドの未来の姿が見えた気がした。

「ハニー…」

ベルナルドは顔を下げてわなわなと震えている。髪のことについて地雷を踏んでしまったかと雨の雫とは別に冷や汗が流れた。

「…シャツ」
「え?」

がばっと効果音がつきそうなほど、勢い良く顔を上げ私の肩をキツく掴んだ。その瞳はギラギラと輝いていて、ほんのりと頬が紅潮しているように感じた。しかも、眼鏡は水滴がついたまま。なんだか頬が引きつる。

「な、なに?」
「シャツが、透けて…」

ベルナルドが言った言葉の意味を理解すると、私は自分の姿を確認した。
びしょ濡れになった透けているシャツとベルナルドを交互に見比べる。ベルナルドの顔は徐々ににんまりと綻びはじめていく。

「据え膳食わぬは…」
「違う違う!」

なにやら嫌な予感に後退る私。予感というよりも、この流れからして絶対にそうだ。
…襲われる。

「き、気持ち悪いッ!」
「ぐふっ」

ベルナルドの顔面に清々しい程のパンチが決まった瞬間だった。
この時ばかりは、ルキーノに痴漢撃退法を教わっといて良かったと思った。

倒れたベルナルドに膝枕をしながら、ぺたんこになってしまった髪を撫で付ける。黒ぶちの眼鏡を外し、端麗な顔に指を滑らせる。なんて綺麗な肌、羨ましい。

「あまり暴走しなければカッコいい人なのに」

空を仰げば、雨は一切止む様子を見せなかった。

2010.07.10