扉を開けるとオレンジ色のぼんやりとした僅かな明かりが零れる薄暗い一室は、なんだか懐かしいような匂いがする。本棚に陳列されている古い本たちはわたしを快く迎えてくれていた。
他の部屋よりも比較的小さいこの書斎は、読書好きなわたしにはとても幸せな場所だった。ぽつんと置いてあるたった一つの小さなテーブルの前に座り、随分と長い間放置されていたような本を手に取り開く。それは古いフィクションの恋愛小説であり、わたしは目で文字を追いながら本の世界に引きこまれる。
何事も、集中しているときは周りに対しての関心が疎かになることがわたしの欠点であり、マフィアという裏の世界に足を突っ込んでいる為、その欠点は時として命に関わるとベルナルドやらに良く注意を受けていた。
のだが、本部の書斎というのはイコール安全な場所として結ばれていて気が弛んでしまうことは、…普通の人間として普通のことだろう。

次の頁を捲ろうとしたとき、忍び寄る影に突然と背後から首を締め付けられた。息が詰まり、苦しさと痛みがわたしを襲った。

「注意不足だよ、ハニー」

聞き覚えのある声と同時に圧迫から解放された。咳込みながらその名を呼んだ。

「ベルナルド…」
「やっと見つけた。」

青ざめた顔で、気配もなくベルナルドはそこに立っていた。切羽詰まっている感じで、唐突にベルナルドは口を開きわたしにこう言った。生きた証が欲しいんだ、と。
そのまま背後から抱き締めら、彼の頭が肩に乗る。

「どうしたの?」

わたしの声がなぜか震えた。
ベルナルドはわたしと同じように震えた声で呟きにも似た小さな声を出した。「悪夢を見たんだ。」と。

「…悪夢?」

わたしが素直に問い直せば、彼は夢の内容を簡潔に話した。

「俺が死ぬんだ。」
「…でも夢でしょう?」
「ハニーも目の前で殺されて、俺は気が狂いそうだった。…だから、証が欲しいんだ」
「なんでわたしに言うの?」

熱い吐息を含みながら、彼はわたしの耳元でそっと囁く。鼓膜を甘く揺らすその声に、わたしの顔は熱を持っていた。

「それは勿論―…分かるだろう?」

ベルナルドに引っ張られて椅子から落ちる。わたしを抱きしめたまま、お世辞にも綺麗と言えないフローリングにわたしを組み敷いた。
薄暗い部屋がわたしの鼓動を激しくする。わたしはただ、ベルナルドの口唇が降ってくるのを甘受した。

2010.11.17