どうしてこうなったのか。今となってはその過程は思い出せないほどに記憶が薄れ、出会ってからの時間の流れを感じていた。ただ理解しているのはあなたはわたしの店を取り仕切る偉い人ってこと、だけ。

「おまえ…眠んねぇのかよ。」

暗闇の中でイヴァンは静かに言葉を落とす。
数時間前まではあんなにも獣のように腰を振りながらわたしを食らい殺すように貪り、息も荒く互いの体液で乱れていたというのに。彼が別の人格のように思えてなんだか可笑しな感じだった。
イヴァンの小さな呟きの声は、わたしの耳にしっかりと届いた。

「…寝れなくて。」目を閉じても意識がはっきりとしていて、一向に睡魔というものがやってこない。その理由は分からないのだが、何かに興奮しているのだろうか?
わたしの言葉にイヴァンは少し沈黙し「オレがいるからか?」と問うた。

「そんなことは、無いわ。ただ―…」
「…そんな、悲しそうな眼、するな」

彼女の言葉を途中で遮り、イヴァンはその瞳を自身の手のひらで覆った。彼女のそれは、幼い頃に向けられた母親の眼とよく似ていた。
貧しい生活だった幼少期。母と過ごした記憶は薄れつつあるのだが、それだけは色褪せることなく覚えている。貧しさ故、大人一人生きるのに精一杯でイヴァンを孤児院に預けざるをえないと泣き崩れたの母の絶望した瞳。
なぜだかその瞳は、ふと突然と脳裏に蘇る。イヴァンが悪い訳でもないのだが…それはイヴァンを苦しめた。
店で彼女に初めてあった時、その瞳が脳裏に蔓延って消えない母のモノと重なり、心臓が早鐘を打った。
どうしてそんな瞳をしているんだ。自分だけに力強く生きている瞳を見せてくれ。そんな浅はかな思いが自分を突き動かしたのか。
その後、イヴァンは彼女を抱いた。近くを訪れるたびに、彼女のもとへ向かったのだが、未だ距離は縮まぬまま一定を保っている。進展は無い。
どうしたら近付けるのか。答えは一向に出ず、横でじっとしている彼女を抱き寄せて腕に力をこめた。

いつか、輝きに満ちたその瞳を見せてくれ、pupilla

20101004