しんしんと降り積もる雪。たまに小さな音を立てて、木々に積もった重さに耐えきれずにしなり、とさりと雪が落ちる。外は雪化粧を施している。朝にはキラキラと太陽に輝き反射している姿が見えるかもしれない。ここはホームステッドのアキレス邸。
名前がアキレス邸に住み始めてから幾度の季節が回っただろうか。ホームステッドの住人たちとも慣れ、今では軽い冗談を言い合う仲であった。
名前には大きすぎるベット。シーツはいつもより冷たく、寂しさを感じた。コナーとおやすみを言って別れてからどのくらい時間が過ぎただろうか。名前の頭ははっきりとしていて眠れないでいた。今日言われたあることを思い出していて。それについては夢見たことも一度や二度あった。名前は胸中でしばらく迷っていたけれど、決意して
ベッドから起き上がった。
薄暗い廊下に出る。素足に伝わる廊下の冷たさ。まるで氷上を歩いているみたいだった。
真向かいの部屋。音を立てないようにノブを静かに回し、暗い室内へと名前は足を踏み入れた。ギィと床が軋み、静寂な室内にはやけに大きな音として響いた。
窓からは雪が月明かりを反射して仄かに明るい。ベッドへ視線を移すと、コナーは上半身を起こしてこちらを見ていた。
「起こしてごめんなさい。」
名前はゆっくりコナーのベッド前へ歩いていく。絨毯の柔らかさが足に優しかった。
「…名前、どうしたんだ。」
「あのね、今日一緒に寝てもいい?」
訝しそうにコナーは首を傾げる。静かに名前は冷たくなった唇を指で触りながら、ぽつりと零すとコナーは瞬きの回数を増やし瞠目した。
沈黙に耐えきれず、やってしまったかもと少し、名前は己の発言に後悔をしていた。あの日の、コナーの、共に歩んでいきたいという言葉だけで嬉しかったのに、コナーといるとどんどん欲深くなっていく自分に名前は浅ましさを感じた。
「あ…、あぁ。わかった。」
俯き加減でコナーは緩やかに言葉を滑らした。それに胸を撫で下ろし、ベッドにするりと潜った。リネンのシーツは体温で温められていて暖かく、鼻腔に木の実や土など自然のいろいろと混じった、コナーのやわらかな、名前の好きなにおいがあふれた。
「ありがとう。…おやすみなさい。」
「あ、あ。おやすみ。」
コナーは早々に背を向けていたことで名前は少し気を落としたが、あたたかさに包まれながら、瞼を閉じた。
雪が降る音に加えて、どこかで狼の遠吠えが聞こえる。…名前は瞼を閉じた。けれども、一向に眠気はやって来なかった。
「コナー…起きてる?」
「ん、」
起きていないだろうなと思っていた名前は、コナーから反応があったことに驚いた。
「突然ごめんね、こういうの嫌、でしょう。」
コナーは人に触れられるのがあまり好きではないように思えた。コナーのパーソナルスペースにどこまで侵入していいのか分からなかった。このような一緒に寝ることさえもしていいのか、本当は嫌なのではないか。土足でズンズンと侵しているような気がしていて気が気じゃなかった。名前はぽつりぽつり落としていく、胸の中のどろどろとした部分を。
「そういう訳では…ないんだ。」
「えっ?」
「ただ―慣れていないだけだ。名前にどうしたら良いか、分からない。」
背中から放たれる言葉にリネットは狼狽えた。同時に嬉しさもこみ上げてくる。
「ん、……じゃあ、ねぇコナー。ぎゅってして。それだけでいいの。」
名前の一言に、もぞもぞと動きようやくコナーがこちらを見る。はちみつ色の柔らかい眼差し、見惚れてしまう。ぐいっと名前の身体がコナーに引き込まれる。厚い筋肉。どくりと鳴る命の鼓動。何故か緩む口元を隠すように名前はコナーの胸元に顔をうずめて、頭を擦りつけた。
プリューデンスから言われたことを思い出す。「子供は早いうちがいいわよ」と、不妊に悩んでいたプリューデンスの言葉には力がある。でももう少し私たちはゆっくりと、歩めば良い。今は、このままで、良い。名前はそう思った。
翌朝、窓からは太陽の日差しと、降り積もった雪の一面の銀世界がキラキラと輝いていた。
14.11.16