こんなこと、可笑しいのは自分でも理解してる。
彼も私もただただ、傷の舐め合いをしていることは分かってるから。

今日も疲れた様子でルキーノは帰ってきた。
あの日から働き詰めなのか、彼が毎日毎日目に見えるほど疲弊していく姿を心配して、無理矢理押し掛けてキッチンを借りた。
キッチンは暫く使われた痕跡が無く、彼女はいないのだとおぼろ気に感じた。彼女のお葬式も済ませたけれど、ぼろぼろの遺体もこの目で見たけれども、いまいち実感が湧かない。
小さい頃から一緒に過ごしてきた毎日があまりにも鮮明すぎて、ずっと近くにいるものだと思っていたから。

「今日もお疲れね、ルキーノ。」

私は苦笑しながら簡単な料理をテーブルに置く。
「何の真似だ。」荒んだ目で睨むルキーノに背筋が震え、思わず背中を向けたくなる程。だけどぐっと我慢して視線を合わせる。

「貴方が心配だから。ちゃんとした食事を摂っていないでしょう?自分の身体を見た?顔も酷いわよ。」
「だから?」
「貴方まで死ぬ気なの?…シャーリーンが死んだから?」
「黙れ!」

小さな音を立てて、お皿が落ちて砕ける。ルキーノに胸元を掴まれ壁に押しつけられ、息が詰まった。
ライオンが威嚇するみたいに目は据わり、でも瞳は寂しさで揺れている。
「死ぬなんてバカなこと言わないでよ!」苦し紛れに精一杯伝えると少し力が緩んで…、徐々に掴んでいた手が離れた。

「貴方には、シャーリーンみたいに死んでほしくないのよ。」

―貴方が好きだから。
その言葉は飲み込んで、私は笑顔を造る。砕けたガラスを拾いながら昔に思いを馳せた。

私はずっと、姉が羨ましかった。小さい頃からずっと、私の欲しいものはするりと持っていって、幸せになってしまう姉。
シャーリーンが私にルキーノを紹介しようとしてくれて、私はルキーノに出会った。
姉の彼という肩書きはどうでもよくて、ただ純粋な一目惚れだった。
だけど、ルキーノと二人きりになる時があってもやはり私を見てくれない。同じブロンドの髪を通してシャーリーンを見ていることに気付いてすぐに染めた。同じ色の瞳はメガネで隠したし、小さい頃から大好きな赤は身に纏うことをやめた。
彼に恋をするのは無謀だと分かっていたから、私は諦めたのに。

惨めな私を置いて、姉は幸せに結婚して子供まで生まれて。会うたび私に、幸せの笑顔を向けていた。
―なのに、呆気なく死んじゃって。
大好きだったルキーノはこんなにもやつれて。見ていられない。

「悪ぃ。ガラスを素手で取るのは危ないぜ。」私がガラスを取っていると、ルキーノは優しい言葉で言う。その優しさが私の背中を押して、私は決意して言葉を紡いだ。

「ねぇルキーノ。私は姉さんの代わりにはなれないかしら。」
「…カーヴォロ。何言ってんだ?」
「貴方には幸せに笑っていてほしいの。」

私は姉さんと幸せそうに笑うルキーノが好きだったのだ。そう今になって気付いた。だから今のルキーノを見ていてすごく苦しい。
染めていた髪は段々と色落ちて、ブロンドに戻りつつある。
「私を、利用してよ。」思わず涙声になった。ルキーノは何も言わない。でも揺れているのは感じた。

「ルキーノ、愛してる。」

それは私の本心。昔から伝えたかった言葉。
だけどこれは姉の言葉でなくてはならないのだ。

「ごめんな…。愛してる。」

ルキーノは私をシャーリーンと重ねて口唇を貪る。

貴方が立ち直るまで、一時の夢を見せてあげる。
先ほど拾っていたガラスによって少し傷を負った指。そこからぷくりと溢れてくるアカイ血はなだらかに私に痛みを伝える。
けど本当にじくじくと痛みだすのは、こんなことをしている私の心、なのだろう。

20100216