想い焦がれて身を焦がし


仕事が終わりメイクルームへと向かう。メイク、落としてから帰ろうと思ってってのは口実で、陽葵ちゃんに会いたかったから。

「あ、亮平くん。お疲れ様です」
阿部「ありがと。陽葵ちゃんも、お疲れ様」
「ありがとう。メイク、落としていく?」
阿部「うん」
「タオル用意するね」
阿部「ありがとう」

メイクを落として洗顔して、陽葵ちゃんからタオルを受け取る。あ、今のちょっといいかも。きゅんってした。我ながらよく分からないポイントで……。

「これ、試してみる? 化粧水なんだけど」
阿部「え、いいの?」
「うん。もち肌になるよ」
阿部「じゃあ、お願いします」

コットンに染みた化粧水が肌を撫でる。物の善し悪しは俺には分かんないけど、いつもよりしっとりしてて肌に馴染んでるなぁってのは分かる。あと、うるさいくらいに鳴り響いてる心臓の音も無視は出来ないかな。

阿部「いい感じ」
「ふふ、でしょ?」
阿部「うん。……あ、あのさ、この後って、まだ仕事?」
「これで最後だよ」
阿部「じゃあ、一緒にご飯でも行かない?」
「え……?」
阿部「あ、えっと、せっかく、再会したし」

言い訳下手くそか、と内心で自嘲気味に笑う。周りからあざといあざといって言われても、そのあざとさを彼女に向けることは出来なくて、というかそもそも発動しなくて。……ただの残念な男に成り下がってる。

「片付けとかあるから遅くなるよ……? あ、それに、ジャニーズさんはそういうの厳しいんじゃないの?」
阿部「あ、うん。そうなんだけど……。ちゃんとした店、選ぶから」

そう話すと彼女は小さく頷いた。一緒に行く訳には行かないから俺が先に店に行って、後から陽葵ちゃんが来るってことで話がまとまった。店の場所はLINEで伝えて「後でね」と言葉を添える。
……ちゃんと来てくれるよね。人を待つだけなのに、こんなに緊張するなんて、思ってもいなかったから。張り裂けそうな胸の思いを抱きしめて、ひとり個室で彼女を待った。