世界でいちばん愛おしい人


しばらくしてふっかさんと市華の熱愛は前以上に騒がれることは減った。それでも、ネットで調べればそういう噂として残ってしまっている。でもその件に関して市華と話すことはなかった。
ロケの合間、休憩中にスマホを見れば市華から『蓮くん、今日何時に帰ってくる?』って連絡が来てた。『日付変わる前には帰れると思う』って返してまたロケへと向かう。

スタッフ「お疲れ様でした」
目黒「お疲れ様です」

結局ロケが押して帰れたのは日付が変わってしばらくした頃。市華は「おかえり〜」って俺を迎えてくれた。

目黒「ただいま。寝てて良かったのに」
「明日休みだからいいの。それに、話したいこともあったし」
目黒「話したいこと?」
「うん。あ、でも先ご飯食べる? お風呂も沸いてるし」
目黒「や、先聞く」

ダイニングテーブルに向かい合って座る。パジャマ姿の市華は背筋を伸ばして、小さく深呼吸をした。

「私たちの結婚の話。前に嫌な感じで終わらせちゃったから、ちゃんと話しておきたくて」
目黒「うん」
「やっぱり、今はまだ、結婚はできない」

市華は困ったように笑って「ごめんね」と呟いた。

目黒「俺は市華と結婚したい」
「え、あ、うん……」
目黒「ただ、今すぐってのはやめる」
「えっ」
目黒「前にふっかさんと熱愛出て焦ったってのもあるんだよね。市華が誰かに取られるのも嫌だし、結婚してたら、こんなデマも流れなくなるかなって」
「そう、だったんだ」
目黒「でも……ちょっと頭冷えた。俺の方こそごめん」

こんなことに託けて結婚しようってのもおかしな話だったのかもしれない。元々その気はあったから、きっかけが欲しかったってのもきっと、心のどこかではあったんだと思う。ただそれは今じゃなかった。

「蓮くん、またいつかプロポーズしてくれる?」

席をたち、彼女の傍に行く。髪を撫でて、丸い瞳をじっと見つめた。

目黒「する。次はもっとちゃんとしたやつ」
「ふふ、楽しみにしてる」

ふわりと笑う彼女にめいいっぱいの好きを唇に乗せて零さないように重ねた。
その後、夜食も風呂も済ませて同じベッドに体を並べる。俺の腕の中で眠たそうにする市華を見つめてるだけで、幸せな気持ちが溢れてきて、サラサラの髪を指で弄んだ。

目黒「……ねえ、今更だけど、俺たちの結婚適齢期ってもう20年くらい先になるんだけど大丈夫?」
「大丈夫。何年でも、何十年でも、待つよ。蓮くんこそ、20年もしたら私おばちゃんになってるけどいいの?」
目黒「その頃俺もおじさんだし。歳重ねて市華のこと、好きだって誓うよ」
「可愛いおじいちゃんとおばあちゃんになろうね」
目黒「うん、約束」

彼女の左手の薬指にそっと口付ける。今はそのくらいしか出来ないけど、いつか必ず、その指に綺麗な指輪を嵌めるから。その日までずっと俺のそばにいてと願いを込めて。