俺だけの君にしたい
ある日の夜。市華を抱きしめてテレビを見る、っていう変わらない日常の中で1つだけ普段と違うことを口にしてみる。
目黒「市華、話あるんだけど」
「え、急だね。……なんでしょうか」
もぞもぞと俺の腕の中で動いて向かい合うように座り直す市華。ちょっとだけ顔が強ばってるのを見て、俺の顔が緩む。
目黒「俺と、結婚してください」
「え、っと、あの」
目黒「ごめん。急すぎるよね」
「うん、すごく、急……」
困ったように笑う市華。どんな反応するか気にはなってたけど、思ってたよりも困ってるみたいで、彼女はそのまま黙ってしまった。
目黒「ずっと考えてはいたんだよね。同棲するって決めたときにはもう、市華と結婚したいと思ってたし」
「……あのね、蓮くん」
目黒「ん?」
「少しだけ、考えさせてほしい」
目黒「えっ」
思いがけない言葉に情けない声が漏れる。「ごめん」と小さく頭を下げて、彼女は先に寝室へ行ってしまった。すり抜けていった温もりが、どこまでも遠くに行きそうな気がして、手繰るように彼女を追って抱きしめた。
「蓮くん、ちょっとだけ1人になりたい」
目黒「分かってるけど、ごめん。どこにも行かないで」
声が震えた。後ろから彼女を抱きしめたままじっとしていたら、市華が「あのね」と言葉をこぼした。
「嬉しくなかったわけじゃないんだよ。……嬉しすぎて、世界で一番幸せって思うくらい」
目黒「ん」
「でもね……、でも……、不安なんだ」
目黒「何が?」
「私は蓮くんと結婚出来たら嬉しいし幸せだけど、蓮くんのファンの女の子たちの中には、蓮くんに恋愛感情を寄せてる子も少なくないでしょ? 私たちが結婚することでそういう子たちが蓮くんを嫌いになるのは嫌なの。アイドルの目黒蓮としての夢が、私との結婚で醒めちゃうなんてこと、あってほしくない」
ぽつりぽつりとこぼされた言葉にハッとした。でもそれはあくまで俺個人の問題で、俺が解決すればいい話だよね?
目黒「結婚しても、子供が出来ても、アイドルとして俺ができる全力を尽くすよ」
「蓮くんのそのはっきりしたところ、好きだよ」
目黒「ありがとう」
「でも、付き合うのと結婚するのじゃ全然違うと思う。……ごめん、もう寝るね」
そう言って彼女は先に布団に潜り込んだ。俺は「おやすみ」と呟いて、彼女の髪を梳くくらいしかできなかった。