その存在が当たり前だから


滝沢歌舞伎の公演中、俺は康二と同室でまあ至れり尽くせりな環境にいるわけで。そうなると、ちょっとだけあいつのことが気になった。ちゃんと飯食えてんのかとか、前みたいに酔っ払ってふらふらどこにでも行ってないかとか。

向井「しょっぴー、出来たで」
渡辺「ん」

スマホアップデートしたらなんか使いづらくなってたんだよなぁ。それも直してもらってスマホ返してもらおうと手を伸ばす。でもいっこうに康二はスマホを渡してこない。

向井「……なあ、聞いてもいい?」
渡辺「何?」
向井「さっきからな、LINEの通知来ててんけど、橘怜奈さんって、あのタレントの橘さん……?」
渡辺「げっ」

あいつどんなタイミングでLINEしてきてんだよ。いやまあ不用意にスマホ渡した俺が悪いのか。誤魔化してもあれだし、素直に「うん」と頷けば「付き合っとるん?」と追撃が来た。康二からスマホを奪ってLINEの内容を見る。『今日家行ってもいい? ピアス1個なくてさ。たぶん翔太んちにあると思うんだよね』って文面を見て、あぁ……と納得した。そういやそんなん見たかも。

向井「なぁ、どうなん?」
渡辺「まあ、その、まあ」
向井「何その煮え切らん返事」
渡辺「付き合ってる」
向井「えぇ! え、いつから、どこで」
ラウール「何何?」

戻ってきたラウールとめめが俺たちの話に混ざろうとする。「なんでもねえよ」って言葉で終わらせたけど。ちょっと離れたところで怜奈に『今、歌舞伎期間中』とだけ返事を返す。向こうはそれで察してくれるから。
その証拠に『あ、ごめん! じゃあ来月あたり取りに行くから見つけたら取っといて! 捨てないでね!』って返ってきた。捨てねえし。
歌舞伎の間は歌舞伎に集中したいからって会わないようにしてる。会ったら全身の糸が緩む気がして、なんか嫌だから。もう何年もこうだから、向こうもそれを分かっててそれ以上踏み込んでこない。

ラウール「彼女?」
渡辺「わ! 何覗いてんだよ、お前」
ラウール「いやだって、あんなのされたら気になるじゃん。で? 彼女? 彼女なの? 彼女だよね?」
渡辺「……そうだよ。悪いか!」
ラウール「悪くはないけど、しょっぴーの彼女って気になる」
渡辺「どういう意味だよ」
ラウール「いや、どんな人なのかなって」
渡辺「別に、普通」
ラウール「へー。しょっぴーの中じゃ橘さんって普通なんだぁ」
渡辺「は?」

なんだその煽り。何言わせたいんだこいつ。

ラウール「俺、今度会ってみたい」
渡辺「だめ」
ラウール「なんで〜」
渡辺「嫌だから」

可愛い顔してお願いするラウールに頑として首を縦に振らず布団に転がった。寝たふりしよ。面倒臭いから。俺が寝たら康二もいそいそと布団を寄せて寝始めた。もし、いつか俺がメンバーにも会わせてもいいって思って怜奈が会ってもいいって言ったら、そんときはまあ紹介してもいいかなって思いながら、夜公演に向けて英気を養った。