※矢花くん視点
嶺亜さんと伊織ちゃんと3人でバンド練した帰り、不意に嶺亜さんが「伊織んち行きたい」と言い出した。伊織ちゃんは「いいよー」って軽く返事をしてて、流れで俺もお邪魔することになった。スーパーに寄って、珍しくお酒なんか買っちゃったりして。……伊織ちゃんがお酒飲んでるとこ、見たことないんだけど。
黎「お邪魔します……!」
嶺亜「お邪魔しまーす。なんか伊織んち来んの久しぶりだね」
「そうかも。れーあ来るとね、ママが喜ぶんだよ」
嶺亜「そうなの? てか今日ママいないの?」
「うん。みんな旅行行ってる」
嶺亜「そっか、残念」
え、ここ2人そんな仲良いの? さすがに伊織ちゃんちの中まで入るの初めてなんだけど。2人とも何も気にせずに伊織ちゃんの部屋まで行くの。何、そんな感じなの?
「コップとか持ってくるね」
そう言って伊織ちゃんが出てくと嶺亜さんは「なんか矢花緊張してる?」って俺をからかってきた。
黎「いや、まあ。てか嶺亜さんが余裕すぎというか」
嶺亜「普通でしょ」
改めて見ると普通の女の子の部屋なんだよね、ここ。甘い香りするし。
「お待たせ」
嶺亜「ん、ありがと。んじゃ、飲もっか」
缶チューハイを片手に3人で乾杯した。伊織ちゃんは凄く甘そうなの飲んでるし、嶺亜さんはよく分かんないけど度数の強いやつ飲んでた。
最初のうちは3人で音楽の話したり近況話したり楽屋でするのとあんまり変わらない感じだったんだけど、次第に酔いは進むもので……。
嶺亜「伊織寝た?」
「ねてなぁい!」
こてんと俺の肩に頭を預けて、とろんと眠たそうに瞼を落とす彼女は、嶺亜さんの質問に元気に答えていた。でも、実際のところは凄く眠たそう。あと距離感がバグってて緊張するからやめてほしい。
嶺亜「寝るならベッドで寝なよ」
「ねないもん……」
呂律が回らないくらい酔ってて、ほっぺたも真っ赤に染めて、熱い吐息が時々俺の肌を撫でる。……あの、一応俺も健全な男の子なので、こういうのされると、あの、ドキドキするんですけど。戸惑ってる俺を見て嶺亜さんはゲラゲラ笑ってるし。
黎「あ、あの伊織ちゃん、水、ほら水飲んで」
「んぅ、ん……」
コップに入った水をこくこくと喉を鳴らして飲む彼女。飲み終わるのを見て、コップを受け取った。
黎「伊織ちゃんそんな飲んでたっけ」
嶺亜「いや、まだ1本目」
ああ、お酒弱かったのね。知らなかった。
嶺亜「伊織ー、寝るー?」
「ねなぁいっ」
近寄って尋ねる嶺亜さんに、いやいやと首を振る伊織ちゃん。ぎゅうって俺の腕にしがみついて離れなくなって、俺も動けなくなってしまった。
嶺亜「てか矢花じゃなくて俺の方来ればいいのに。ほら、おいでー」
「ん、れーくんがいい」
黎「お、ほほぅ」
嫌な気はしないんだけどさあ。こういう姿見ちゃうと他所ではお酒飲ませられないなぁとか、いろいろ思うわけですよ。過保護すぎかなと思うけど、過保護なくらいが丁度よかったりするのかも。だって、伊織ちゃんは女の子だから。部屋だって本人だって砂糖菓子みたいに脆くて儚い存在で、だけど意外と芯が強くて、男しかいない中でも今日まで頑張ってる子だ。
嶺亜「……ねえ、伊織寝てない?」
黎「あ、本当だ」
あどけない寝顔を晒す彼女を、ほんの少しでもいいから、何かから守ってあげたいと願うのは傲慢だろうか。共に戦う侍の鎧を脱ぎ捨てて、姫となった彼女を嶺亜さんと2人で抱き上げてベッドに寝かしつける。
嶺亜「矢花ってさー、伊織といる時優しい顔するよね」
黎「え?」
それは嶺亜さんも同じでしょ。……まあ、そんなこと言ったらまた何言われるか分かんないから言わないけど。てか、7MENみんなそうだよ。なんやかんや伊織ちゃんに甘くて、伊織ちゃんのこと大切にしてる。いつ誰が伊織ちゃんのこと好きって言い出しても驚かないし、その時はたぶん、そうなんだって言ってしまうと思う。それくらいに俺たちは彼女のことを愛しすぎていた。