不安も不満も七等分

ジャニーさんの病室でデビューを告げられた日、そこに瑠依の姿はなかった。
「6人でデビューするんだよ」って言われた時は言葉を失った。
だって俺たちはずっと7人だったから。
慎太郎と樹とジェシーが先陣切って声を上げて抗議して、俺とか大我とかも「どうして」って滝沢くんに詰め寄ったっけ。珍しく北斗も声を荒らげてて、こいつ人のために怒れるんだって思ったっけ。

「瑠依にももう話はしてあるんだ」
「は? あいつ、なんて言ってたんすか」
「辞めるって」

全員の声が重なった瞬間だったと思う。「はあ?」って、ふざけんなよって気持ちが綯い交ぜになって、滝沢くんにもジャニーさんにも瑠依にも怒りを覚えた。
今思えば、病人相手によくあんだけ怒鳴れたなってくらい、最後の最後までジャニーさんには迷惑かけっぱなしだった。

散々暴れた俺たちは6人でマネージャーの車に乗り込んで、瑠依んちに連れてってもらった。
瑠依はいつもと変わらない感じで「いや、そんないっぱいうちには入んないわ」って笑ってた。
でも無理矢理押し入って、狭いから部屋ん中でぎゅうぎゅうになりながら座って瑠依を囲んだ。

「……お前、辞めんの?」

最初に話を切り出したのは北斗だった。
今から物凄く大事な話をするっていうのに、瑠依はまったくと言っていいほど変わらなかった。思えば普段の瑠依より冷静に見えた。

「辞めるよ」
「一緒にデビューするって、言ったじゃんか」
「ごめん、慎ちゃん。今更遅いかもだけど、撤回する。私はデビューしない。……これでいい?」
「良いわけねえだろ、まじお前何考えてんだよ」

今にも瑠依の胸ぐらを掴みそうな樹を制止して話を続けさせる。樹も樹だよ。相手は一応女の子なんだからさあ。

「長すぎる夢だったんだよ。私にとってジャニーズって存在は。ちょうどいい機会だから、夢から覚めようと思って」
「瑠依はそれでいいの?」
「それでいいも何も、ずっとそのつもりだった」
「どういう意味?」

大我の言葉に瑠依が静かに瞬きをする。その刹那的な動きすら凄く魅力的に見えた。たぶんだけど、俺だけじゃなくて、そこにいたメンバー全員同じこと思っていたと思う。

「SixTONESになるちょっと前にさ『HELL,NO』やったの覚えてる?」
「あー、あった」
「やば、なっつ!」
「超楽しかったよね」
「あの時めちゃくちゃ楽しくて、もう辞めてもいいって思えるくらい幸せだったんだよね」

あの時には一言もそんなこと言ってなかったのに。むしろ、あの時よりも楽しそうに当時のことを話してるようにすら見える。

「もちろん、その後にバカレアやってた7人がSixTONESになったときにも楽しいことはたくさんあったよ。でも、SixTONESがSixTONESだった時点で、いつか6人になるんだなって、居なくなるならそれはきっと私だって思ってた。抜かれたドは私だったんだよ」

そう言って瑠依は笑った。怒るでも泣くでもなく、ただ笑った。ただ静かに慈愛に満ちた顔をする彼女を見て、なんていうか"ずるい"と思ってしまった。
俺たちばっかりが瑠依を繋ぎ止めようとして、言ったら未練タラタラな感じでここまで来てるのに、当の本人は全然気にしていない。むしろ新しい道をもう見据えているようにも見えて、だから余計にムカついた。
でも、これ以上何かを言えるような状態でもなかった。

「辞めて、どーすんの」

静寂を打ち破ったのはジェシーだった。

「普通に仕事するよ」
「出来んの?」
「やってみなきゃ分かんないじゃん」
「……ダメだったら、俺んとこ来いよ」

冗談みたいなことをけろっと言いのけたのは樹だった。こいつまじかって思ったけど、その目は真剣そのものだった。

「やだよ、樹のとこなんか」
「じゃあ、俺のとこは?」
「いやぁ、京本財閥はちょっと……」
「んじゃ、俺んとこだ! DAHAHA!」
「えー……」

急なプロポーズ合戦になってんの。1Kの部屋で大男共がぎゅうぎゅうになりながらプロポーズって、異様な光景すぎて、後にも先にもこんな機会立ち会いたくないって思った。

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