『マジで付き合う15分前』A


スタッフ「夏葉役の佐倉美彩さん入られます」
「佐倉美彩です。よろしくお願い致します」

ぺこりと頭を下げる美彩。いつものふにゃふにゃした可愛い美彩も好きだけど、仕事中の真剣な顔も好き。そんなことを考えてたら俺も名前呼ばれてた。

佐久間「佐久間大介です! よろしくお願いします!」

大勢のスタッフさんの拍手で迎えられる。キャラクターに合わせた夏用の制服に身を包んだ俺と美彩。仕事で着る機会は何度もあるけど、映画ってなるとちょっといつもより緊張するかも。駆け寄ってきた美彩が「大介くん、頑張ろうね」って手をぎゅっと握ってくれてようやく震えが収まった、なんて、情けなくて言えるはずもない。


監督「じゃあ、一番最初の夏葉が祐希に別れようって言うシーン撮るんで、お願いしまーす」

ファミレスでお互い向かい合って座る俺たち。それまでにこにこしてた美彩の顔が一気に女優のそれに変わるのを見て息を飲んだ。飲まれちゃダメだ。変に緊張する必要もない。俺らしくで、大丈夫だから。

監督「よーい、アクション!」

監督の言葉と静寂。賑やかになるファミレスで、美彩の声だけがハッキリ届いた。

「祐希。あたしら別れよう」
佐久間「……え?」

刹那の沈黙。ただすぐに俺のセリフが続く。

佐久間「オレら、付き合ってたっけ?」
「いや、付き合ってない」
佐久間「どういうこと? ……あ、ポテト食う?」
「食べる。あたしら幼馴染じゃん。付き合ってるって噂されるから」
佐久間「んまぁ、噂は噂だし」
「そうやって否定しなかったせいで、お互い決まった相手もなくまもなく高校卒業を迎えるわけだけど」
佐久間「……え、じゃあ付き合う?」
「じゃあって何? アンタ今更あたしに欲情できんの?」
佐久間「ギリできる」
「ギリってなんだよ」

少しの間。ドリンクをひと口飲んで、言葉を続ける。

佐久間「……けどまぁ、志望校違うし、卒業したら変わんじゃねぇ? お互いいろいろ、勝手にさ」

ザワザワとするファミレス内。外を見ていた美彩が少しだけ視線と眉を下げる。

「……それはいやだなぁ」

ポツリとこぼされた言葉にトキメキを隠せない。きっと祐希もこんな気持ちだったんだろうなぁ。ちょっと泣きそうな美彩を今すぐにでも抱きしめたくなった。

佐久間「つ、付き合ってみるか……」
「……うん」

監督「はい、カーット! うん、いいね。この調子でお願いします!」
「はい! ありがとうございます」
佐久間「ありがとうございます!」

お互いの顔がアップになるところを別のカメラで撮って、次のシーンまで少しの休憩。パイプ椅子に座ってたら、「隣、いいですかー?」って美彩が声を掛けてきた。

佐久間「んひひっ、どーぞどーぞ!」
「ありがと。ふふ、なんだか不思議な感じ」
佐久間「どーして?」
「だって、こうして2人でお仕事ってなかなかないでしょ? この間ananの表紙させてもらったときも、すごく幸せだったけど。……私、今もすっごいドキドキしてる」

ふにゃりと笑って話す美彩を思いきり抱きしめる。だってそんな可愛いこと思ってるなんて思わないじゃん!

佐久間「俺も、緊張してたけど、美彩と一緒だから頑張れた。俺らしく、芝居出来たのも美彩のおかげ。本当にありがとう。……大好き」

俺の腕の中で真っ赤になる美彩。んふ、すっげえ可愛い。誰にも見せたくない、なんてワガママなこと考えたり。

スタッフ「……お取り込み中のところ、すみません……! 次のシーンのスタンバイ、お願いします」
「わ、す、すみません……! すぐ準備します!」
佐久間「すみませんでしたー!!」

大勢のスタッフさんに見られてたみたいで、俺まで恥ずかしくなっちゃった。慌ててスタンバイして、心臓を落ち着かせる。美彩はメイクさんたちに囲まれながら照れ笑いを浮かべていた。たぶん、さっきの話してるんだと思う。恥ずかしいとこ見られちゃったなぁ。気をつけよ。