先輩の彼女


※田中樹くん視点


今日から撮影。最近少しずつドラマの仕事も増えてきたと思ったら、W主演で少女漫画のヒーロー役に抜擢されるってなかなか凄くない? 俺いけんべ?
相手は佐倉美彩さん。今結構キテる女優だけど、彼女がまだ今よりも世間に知られる前から俺はその名前を知っていた。俺だけじゃなくて、その頃からいるジュニアは全員知ってたと思う。

Snow Manの佐久間くんの彼女。

それが佐倉さんの最初の印象で、今も変わらず付き纏ってるもの。

スタッフ「佐倉さん入られます」
「おはようございます、佐倉美彩です。よろしくお願い致します」

うわ、本物超可愛い。見た目もなんか、佐久間くんが好きそうな感じで妙に納得した。……あ、目合った。

「よろしくお願いします、佐倉美彩です」
田中「あ、SixTONESの田中樹です」

ぺこりと小さくお辞儀をする彼女に合わせて俺もお辞儀をする。
そういや、この仕事決まってキャストが公開された時にマンズ兄さんからも連絡貰ったんだよなぁ。

『俺の嫁とドラマやんだって!? 惚れんなよ!』

これは佐久間くん。なんかこの後、佐倉さんの魅力について長文で書かれてたけどあんまちゃんと読んでない。

『佐久間の彼女に手出すなよ』

これはしょっぴー。たった一文だけ。いや俺の事なんだと思ってんだよ。

『佐久間が嫉妬するくらいやばいドラマ頼むわ!わら』

これは師匠から。この煽ってくる感じやばくない?
てかみんな佐久間くんの話ばっかすんの。嫌じゃないし連絡くれるだけ嬉しいけど、遠回しにすげー牽制されてる気がすんの。言っとくけど、手出さねえよ!? 出さないからね!? そこだけは俺きっちりするから。


監督「じゃあ入学式のシーンから撮ります」

さっきまでの柔らかな雰囲気が一瞬にして切り替わる。一喜一憂する姿、どこを切り取っても瀬名垣一咲そのもので、俺も負けてられないと思った。


***


田中「お疲れ様です」
「お疲れ様です……!」
田中「今回の撮影のこと、佐久間くんなんか言ってました?」
「えっ、あ……、えっと……、ビジュアルが完璧だって、言ってました」

ふふ、と照れ笑いを浮かべる彼女。次第にその表情は一咲が啓弥に向ける視線に近くて……、いや、それよりもっと優しい顔になっていった。

田中「なんで佐久間くんだったんすか?」

ぽつりと零れたのは単純な疑問。他にもいい人沢山いたんじゃないのっていう。

「……大介くんは、私の初恋なんです」

照れくさそうにはにかむ佐倉さん。
初恋、かぁ……。初恋、初恋なぁ……。初恋なんて淡い思い出になるもんだと思ってた。それを彼女は今でも実らせている。それはなんか単純に凄いなって思う。
「へぇ」とだけ呟いて「佐久間くんのどこが好きなんすか」って言葉を続けた。

「最初は、笑った顔が可愛いなぁって」

ぽつりぽつりと思い出を語る佐倉さん。辺りにぽわぽわと花が舞ってるみたいな幸せな空間が彼女の周りにだけ出来る。そしてそれに置いてかれる俺。

「でも今は……」
田中「今は?」
スタッフ「次のシーンの準備整いました! 田中さん、佐倉さんお願いします」
「あ、はーい」

立ち上がったと思えば、くるりと回って俺の方を振り返る彼女。

「さっきの話、私と田中さんだけの秘密にしておいてくださいね」

無邪気なお願いに不覚にもきゅんとした。あーやば。いうても先輩の彼女だかんね? ……なんかほんと、無意識でやってるんだとしたら、佐久間くんはすげえ子を彼女にしたんだなって。
「へーい」と軽めの返事を返して、次のシーンの立ち位置へと向かう。佐久間くんが嫉妬するくらいやばいのかましてきますか。