小さな不安


「ただいまー」
佐久間「おっかえり〜! ってここ美彩んちなんだけどね」
「んふふ、でも嬉しい。大介くん、ちゅーしたい、です」
佐久間「ん、ふふ」

ちゅっ、って可愛いの何回も強請られて、俺たちは唇を重ねた。

「お風呂上がったよ〜」
佐久間「んじゃあ、次は佐久間さんとイチャイチャする番ね〜」
「……ちゅー、したい」
佐久間「んふふ、いっぱいしよ」

珍しく甘えたな彼女の可愛いお願いに応えて、ちゅっ、ちゅうとキスを重ねる。

でも、なんか違和感を覚えたのは何日かしてからのことだった。最初は可愛いおねだりだと思ったし、仕事も忙しいから俺で癒されてるのかなって思ったけど、それにしてはキスを強請る頻度が高くて、そういう時はいつも決まって少しだけ困った顔をしてたから。


***


佐久間「あのさぁー」
阿部「ん?」
佐久間「最近美彩がさぁ、すげえ甘えてくんの」
渡辺「は? 惚気かよ」
佐久間「惚気てんのかなぁ。いつもよりちゅーすること多いんだよねぇ」
深澤「まじの惚気じゃん」
阿部「何か引っかかってんの?」
佐久間「んやぁ……なんかぁ、困った顔、しててぇ……今までこんなことなかったなぁって……」

腹の奥がモヤモヤした感じ。なんだろ、上手く言えないけど。美彩のあの顔が忘れられない。困った顔してる理由、それがもし俺に話せないようなことだとしたら、そしたら俺は……。

渡辺「彼女浮気でもしてんじゃねえの」
深澤「相手は樹か〜?」
佐久間「は!? 勝手なこと言うなよ!」
阿部「あの佐倉さんに限ってそんなことはなさそうだけど」

阿部ちゃんの言う通り。美彩に限ってそんなことない。そう思いたい。そう思いたいんだけど……。

深澤「とりあえず樹呼んでみる? 連絡ついたし」
佐久間「え」
渡辺「え? 今このスタジオいんの?」
深澤「いるっぽい」

ふっかの呼び出しですぐに樹が楽屋までやってきた。「お疲れ様です」と笑う樹。俺、いない方がいいかな。聞きたくない、し。

佐久間「俺、飲み物買ってくる」

そう言って楽屋を出た。休憩スペースで時間をつぶしてたら阿部ちゃんから『樹帰ったよ』ってLINEがきた。

深澤「お、戻ってきた」
渡辺「うははっ」
佐久間「んで……、どうだったの」

聞くの怖いけど、聞いとかなきゃいけない。いや、まじで聞くのやなんだけど。

深澤「んま、結論から言うと白だった」
佐久間「あ、そっか……」

良かった。深く安堵した。もう、これで黒とか言われたら俺泣いてた。

深澤「てか浮気してんじゃない? って言ったの申し訳ないくらい佐倉さん佐久間のこと好きだわたぶん」
佐久間「へ?」
渡辺「まじ、それ」
阿部「樹伝いだけどめっちゃ惚気られたもんね」
渡辺「それな。休憩中、ずっと佐久間の話してるって言ってたし」
佐久間「え、まじ?」
深澤「まじ。良かったじゃん」

良かった、けど、じゃあなんで……? 拭えない不安が残ってた。

収録後、ふっかが俺のところに来て「今日も佐倉さんのとこ行く?」と尋ねてきた。

佐久間「うん、行くよ」
深澤「んじゃあ、真正面から聞いてみたら? ダメだったらまた明日話聞くから」

けらけらと笑って背中を叩いてくれた。大丈夫かな。俺、こういうのほんと苦手っぽい。今までこういうなんか不安とか喧嘩みたいなのなかったから余計に。


***


佐久間「ただいまー……」
「おかえりー。……元気ない?」
佐久間「あ、うーん……。ねえ、美彩」
「うん」
佐久間「聞きたいことあんだけど」
「何?」

ここじゃあれだからとリビングへ移動する。俺と美彩、向かい合って正座するのは美彩が樹との仕事決まったとき以来かな。

佐久間「俺に、何か隠し事、してる……?」
「え?」

少し驚いたような顔をする美彩。「なんの事?」と首を傾げる姿は、本当に何も知らない無垢な様子で、疑ってるのが申し訳ないくらいだった。

佐久間「……最近、キス多いのとか、凄い甘えてくるの、なんで?」

ぽつりとこぼれた、俺の疑問。

「え、あ、ごめん。……嫌だった?」
佐久間「嫌とかじゃなくて、そういう時の美彩の顔、なんか困ったような顔、してるから」

そう話してようやく美彩が「あっ」と何かに気付いたような顔をする。

「……あのね、その、笑わないで、聞いてくれる?」
佐久間「うん?」
「……嫉妬、してました」

怒られる前の子供みたいな顔。しゅんとして、俺の方を見つめる美彩。嫉妬? 嫉妬って何? 混乱する俺に美彩は「ごめんなさい」と呟いた。

「……最近ね、お仕事が早く終わった日には、映画館に行ってたの」
佐久間「映画館?」
「……白蛇、大介くんには3回は見たって言ってたよね?」
佐久間「うん」
「ほんとはもっと見てたんだよね」
佐久間「え!? そうなの!?」
「それでね……、あの、大好きな、映画、なんだけど……、何回見ても、苦しくなっちゃって」
佐久間「……ストーリーが?」
「……ううん」

じゃあ何が。そう言いかけて口を噤んだ。美彩が苦しくなる理由になりそうなものが、俺の中にもあったから。

「……キスシーン」

ああ、やっぱり。俺がずっと、気にしてたあの困った顔。美彩が今まさにその顔をしながら笑うから……、なんとも言えなくて、思いきり抱きしめた。

「……嫉妬、した。キスしてるのは、宣と、白なのに、大介くんと、三森お姉様が、してるみたいで」

俺の胸の中で、言葉を詰まらせる彼女。見れば今にも泣き出しそうなくらい目に涙を浮かべていて、でも決して泣こうとはしてなくて、むしろ堪えてるように見えた。

「……ごめん、ごめ、なさい。大介くんの、こと、困らせる、つもりないの、ごめ、ん、なさい……っ」

うさぎみたいに目を真っ赤にさせる美彩に、俺からキスをする。宣と白みたいに、見つめ合って、吐息だけが世界を支配して……。
言葉を奪って、二人の間に愛を閉じ込める。俺が好きなのは美彩だけだよ。唇に乗せた想いは美彩にちゃんと伝わってるかな。言わなきゃ、分からないか。

佐久間「俺、美彩のこと、嫉妬させれるくらいの演技、出来てたってこと?」
「……え? う、うん」
佐久間「んふふ。嬉しい。美彩が凄い悩んでて、困ってるのにこんなこと言ってごめんね」

もう一度キスをして「俺が好きなのは美彩だけだよ」と今度は言葉にして彼女に伝えた。

佐久間「こんなことじゃ、俺困ったりしないよ。むしろ、もっと俺のこと困らせてよ。……あ、でも、俺も、今回のはけっこう不安に思ったりしたから、その、なるべく抱えこまないでもらえると、嬉しい、です」

くしゃりと笑えば、同じように美彩も笑った。「不安……?」って上目遣いで尋ねられて、ばっと美彩から離れて土下座した。

佐久間「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、美彩が、浮気してるんじゃないかって、疑いました……! ごめんなさい!!!」
「え? 浮気? なんで?」
佐久間「困った顔で、キスねだるの、なんでかなってメンバーと話したら、浮気してんじゃない? って」
「え、わ、ごめん! そんな、ごめん!」
佐久間「俺の方こそごめん! 最低なこと、考えた」
「ううん、変な態度とってたの、私の方だもん」
佐久間「ほんと、ごめん」

しゅんとする俺の頬に触れる美彩。「大介くん」と俺の名前を呼んで、柔らかく笑う姿にきゅんとした。

佐久間「……ちゅーしていい?」
「うん。いっぱいして」

お互いに笑いあって、悩みも全部吹っ飛んで、キスしたり、美彩のこと押し倒しちゃったりして。


***


「……今度、2人で白蛇見に行きたいな」
佐久間「え?」
「……だめ、かな?」
佐久間「俺はいいけど、美彩は大丈夫?」
「ん、大丈夫。ずっと、2人で行きたかったの」
佐久間「んひひ、俺はいつでも大歓迎だよ」

俺も、同じ気持ちだったから。美彩から誘ってもらえるの、嬉しいくらいだもん。
ベッドの中でふたり、身を寄せあって笑い合う。そして、どちらともなくキスをした。