キミでいっぱいだ


「ん、美味しい、と、思う」

甘い香りがキッチン全体に漂う。冬のメインイベントのひとつと言っても過言じゃないそれを見過ごすことはできない。でも、彼と同じ家でそれを過ごすのは初めてで、なんだかいつもより緊張しちゃう。今日のは練習だから、本当は匂いも全部大介くんにはバレたくない。

佐久間「たぁだいまぁ!」
「おかえり! 早かったね」
佐久間「ん、本当はもう一本あったんだけど調整入ってさぁ〜、早く終わった! ん? なんか作ってた?」
「あ、ううん。なんでもない」
佐久間「何でもなくないでしょ〜? 見せて見せて!」

つい、作ったばかりのガトーショコラをうしろに隠せば、大介くんが私の後ろを覗き込む。

佐久間「え!? ケーキ!?」
「ん、うん……」
佐久間「食べていい?」
「ど、どーぞ……!」

まだ練習段階だけど、そんなこと気にしないで大介くんはそれを口に含んだ。

佐久間「やば! めちゃうま!」
「ほんと!?」
佐久間「ほんと! てか美彩の作るもの、美味しくなかった試しないし! 今日のはほんと、お店出せるレベル!」

大介くんはすっごい褒めてくれるから照れくさくて、でも凄く嬉しくて「ありがと」なんて言いながら、彼からひと口ケーキをもらう。

佐久間「あのさぁ1個聞いてもいい?」
「ん?」
佐久間「これ、バレンタインのだったりする?」
「……ん、そう。でも、まだ練習中なの」
佐久間「え? これで? もうすんごい美味しいのに?」
「うん、今日初めて作ったし。もっと、上手にしたくて」
佐久間「それ、俺にくれるんだよね?」
「もちろんだよ?」
佐久間「毎年、練習とかしてた?」
「……うん、してた」

そう白状すると、大介くんはぎゅうっと私を抱きしめて「やば、俺すっごい嬉しい!」と笑った。

佐久間「美彩が毎年手作りしてくれてんのは知ってたけど、毎年練習してたのは知らなかった!」
「ふふ、言ってなかったもんね」
佐久間「やぁば。ほんと、嬉しい」

ちゅっ、と触れるだけのキスが落とされる。ほんのりチョコの味がして、見つめ合った時に甘い空気が漂う。

佐久間「んふふ。大好き」
「私も、大好き」
佐久間「んへへ、かぁいい。……さっきのちゅー、チョコの味、したね」
「ん。甘かったね」
佐久間「俺、こーいう甘いの、好きかも」

啄むキスが何度か紡がれ、呼吸が奪われる。瞳が蕩けて、くたりと微笑んで、また彼を求めて。

佐久間「バレンタイン当日、めっちゃ楽しみにしてていい?」
「……ん、頑張る、ね」

ふにゃりと笑って彼の甘い唇に、自分のそれを重ねて笑った。