出逢
「この子〜、声優やってるんですよ〜」
「えー! なんか喋ってみて」
「あれ出来る!? 峰不二子の声真似!」
来なければ良かった。人数合わせで呼ばれた合コンで、好奇な目に晒されていた私はひどく居心地が悪い思いをしていた。刺すような視線が離れたのは「ごめん。遅くなった」と入ってきた人がいたから。
「もー、照おせーよ!」
「ごめんごめん」
くしゃりと笑う顔。"ひかる"という名前。180は優にある身長。……本物? え、でも、だって。
岩本「岩本照です」
「こいつ、ジャニーズ事務所に所属してんだよね。Jr.だけど」
ああ、やっぱり本物だ。まさか、こんなところで会うなんて思ってもいなかった。顔が熱い。どうしよう。メイク、変じゃない? ……あ、目、合った。うわ、かっこいい。どうしよう。にこりと微笑まれて、息を飲んだ。
そこからの記憶は曖昧で、お酒の力を借りて、ふわふわした感覚のまま、店を後にした。
「岩本くん、帰りどっち?」
岩本「あっち」
「じゃあ逆だ。その子のこと、送ってってくれる?」
岩本「あ、うん」
その子、っていうのは私のこと。手を振って別れた先輩が、幹事の男の子の腕に腕を絡めてるのをぼんやりと眺めた。
岩本「帰ろっか。歩ける?」
「ん、大丈夫、です」
大きい手が私の肩を抱く。え。どうしよう。なんで。どうしよう。どうしよう。
「あ、あの」
岩本「あ、ごめん。ふらふらしてるから」
「すみません……!」
岩本「腕、掴まる?」
「それは、その、申し訳、ないので」
岩本「別に気にしないでいいよ」
くしゃっと笑った顔が眩しくて、目が離せなくなった。彼の言葉に甘えて腕をきゅっと掴んで駅まで歩く。夢かな。夢だったら冷めないでほしい。
岩本「今度さ、どっか行かない?」
「え?」
岩本「だめ?」
「だめ、じゃないです」
本当に夢かもしれない。明日になったら消えてるかもしれないけど、連絡先を交換した。そして、家まで送ってもらった。「おやすみ」の一言で別れるのが名残惜しくて、意味もなくじっと彼を見つめてしまう。
岩本「ちゃんと水飲んで寝るんだよ」
「はい」
岩本「そんな顔されたら帰るに帰れないんだけど」
「帰っちゃうんですか……」
岩本「帰っちゃいます」
「……寂しいです」
岩本「酔ってないときに同じこと言ってくれると嬉しいんだけどなー」
ぽんと頭を撫でて「おやすみ」と呟かれる。「おやすみなさい」って返して部屋へ入る。ベランダに出て、帰っていく彼の後ろ姿を見つめると、不意に彼が振り向いた。ひらひらと手を振れば同じように振り返されて『早く寝なよ』とLINEが飛んできた。