友達
目が覚めても彼の連絡先が消えていない。そんな事実を毎朝確認するのが日課になったなんて照くんには言えそうにもない。彼との他愛もないLINEを返していると、不意に『今日休み?』と尋ねられた。
『休みですよ』
『じゃあどっか遊びに行かない?』
『え?!』
『やだ?』
『嫌じゃないです! 全然!』
『ほんと? じゃあ家まで迎えにいくから準備して待ってて』
推しからのLINEの破壊力やばい。私死んでしまうかもしれない。永久保存したい。うるさいくらいに高鳴る胸を抑えて、急いでクローゼットの中を漁る。何着ていこう。頑張りすぎない、友達と遊ぶ時の服……。何着てたっけ?! 可愛いと思われたい。でも、この気持ちはバレたくない。
岩本「おはよ」
「おはよう、ございます!」
岩本「どうぞ、乗って?」
「失礼します……!」
岩本「なんでそんな緊張してんの」
くしゃりと笑ってそう話す彼。だって、そりゃ、推しと一緒だし、そもそも男の人と出掛けるのも、経験がないから……。
岩本「そんな気張らなくていいから」
軽快な音楽と共に車が走り出す。運転席に座ってハンドルを握る彼がかっこよくて目のやり場に困ってしまう。LINEではあんなにたくさん喋ってたのに……、上手く言葉が出てこない。
岩本「急に誘ってごめんね」
「いや、全然! ほんと、暇してたんで」
岩本「めっちゃ早口」
「……緊張してます」
岩本「そんな緊張されるような男じゃないけど」
「いやでも、ジャニーズさんだし……」
岩本「凄いのは俺じゃなくて先輩たちだよ」
「でもでも凄いです」
岩本「その敬語もやめない? 男友達みたいな感じで話してよ」
「……男友達とか、いたことないんで」
岩本「まじで?」
「こんなことで嘘言いませんよ」
岩本「ふーん」
ふふ、と彼が笑って、つられて私も笑う。この笑顔が好きなんだよなぁ。ドキドキする胸の音を聞かれないようにだけ気をつけて、少しずつタメ語を混ぜて話してみる。
「よくドライブするの?」
岩本「するよ。適当に車走らせるの好きだしバイクも乗るし」
「バイク……! かっこいい……!」
岩本「なにそれ」
「岩本さんみたいなかっこいい人がバイク乗ってるのすごく似合っててかっこいいなぁって」
また「なにそれ」とくしゃりと笑いながら彼は呟いた。
岩本「てか、岩本さんって。LINEじゃ照くんって呼んでたじゃん」
「あ、いや……その……」
本人を目の前にして恐れ多くて言えませんでしたなんてのは通用しないらしい。「茉白ちゃん」と名前を呼ばれるだけでくすぐったい気持ちになる。
「……照、くん」
岩本「ん、及第点かなぁ」
「照くん」
岩本「何?」
「照くん……!」
岩本「だから何?」
「呼ぶ練習です」
岩本「最初よりは上手になってた」
「ふふ、ありがとう」
推しに向かって推しの名前を連呼するなんて、コンサートでくらいしか味わえない楽しみだからついつい口に出して呼んでしまう。照くんの微笑みを網膜にまで刻み込みながら、それでも友達以上の感情を見せないように笑う。明日なんて来なければいい。そんなわがままを胸に、彼と共に首都高を走った。