嫉妬
ゆさぴょん「本日のゲスト、声優の鷺坂茉白さんです」
佐久間「わー!!」
「はじめまして、鷺坂茉白です」
佐久間「うわ、やばい、本物だ……!」
さすが佐久間さんといったところなのか、私のことも存じていただいてるらしい。有難い通り越して凄く嬉しい。ぱちっと、ひーくんと目が合った。なんだか照れくさいなぁ、お仕事で一緒するの。
佐久間「鷺坂さんといえば、ウマ娘でも俺の嫁のメジロマックイーンちゃんのライバルであるライスシャワーを演じたり、プリキュアアラモードで宇佐美いちかちゃんやってたり! てか俺の嫁のプリンセスコネクトのコッコロちゃんだし! やばい、嫁の中の人とご対面してしまった! うわまじ感激!!」
ラウール「ちょーっと佐久間くん落ち着こうか」
深澤「鷺坂さんが喋るターンだからね」
「ふふ、でも佐久間さんにご紹介いただいたのが全てですね。本日はどうぞよろしくお願い致します」
嬉々として話す佐久間さん。ちらりとひーくんを見ればちょっと拗ねた顔をしていて、それがなんだか凄く可愛くて思わず笑ってしまう。
「名だたる先輩方が勝利を収めていると聞きましたので、私も先輩方の顔に泥を塗らないよう頑張ります!」
そう言って始まった神喰いアフレコ対決。1人9役なんて初めてだったから緊張したけど、なんとか無事に勝つことができた。
ほっと胸を撫で下ろし、収録を終えると、佐久間さんが「お会いできてまじで嬉しいです! 良かったら、サインください!」と声を掛けてきた。
「私のなんかでいいんですか?」
佐久間「なんかじゃないです! 超レアですよ!」
「ふふっ、そう言っていただけるなら嬉しいです」
佐久間さんへと綴れば「わー!」と嬉しそうな声が上がる。「あ、あの、良かったらこれ受け取ってください」と渡されたのはSnow Manのアルバム。しかも全員のサイン入り。真ん中に"鷺坂さんへ"と書かれていて感嘆の声が漏れた。
「え、いいんですか!?」
佐久間「もちろん!」
「ありがとうございます! 宝物にしますね」
佐久間「んにゃす! ありがとうございます!」
照れ笑いを浮かべながら「実は私、Snow Manさんのファンなんです」と打ち上ければ「んぇえ! まじで!?」と驚かれた。
佐久間「ちなみに誰担ですか……!」
「岩本さんです」
佐久間「照かー! 呼んできましょうか?」
「え、あ……」
佐久間「照ー!」
大丈夫です、と言う前に佐久間さんは走ってひーくんを呼びに行ってしまった。どうしよう。戸惑う私をよそに満面の笑みの佐久間さんと不機嫌顔のひーくん。佐久間さんと話しすぎたからかな、ちょっと拗ねてる。ううん、ちょっとじゃないや。結構拗ねてる。
あとはお若いふたりでと言わんばかりににやにやしながら離れていった佐久間さんを横目に見送り、ひーくんと向き合う。
「……拗ねてる?」
岩本「拗ねてない」
そう言うわりに唇は突き出されていて、不服そうな顔を向けていた。手を伸ばして、その唇にキスしたいって思っても、さすがにここじゃ難しい。付き合ってるの、公表してないし……。いや、言っててもさすがにこんな公共の場でキスは難しいんだけど……!
「……今日、遅い?」
誰にも聞こえないよう小声でそうこぼしたのは私。佐久間さんのおかげで周りに人がいなかったから。ひーくんも表情ひとつ変えずに言葉を続けた。
岩本「これで終わり」
「あ、私も。今日、車?」
岩本「うん」
「じゃあ、駐車場で待っててもいい……?」
岩本「ん、分かった」
小さく頷いてふわりと笑う。ぺこりと頭を下げて、私は楽屋へと戻った。マネージャーさんに話をして、帰り支度を済ませて足早に駐車場へ向かう。
「ごめん。待ってるって言ったのに」
岩本「いいよ、別に。乗って」
言われるがまま助手席に乗ると少しして彼は車を走らせた。ふたりきりになった。でも、運転の邪魔になるからキスもハグもできない。
「……手、繋いでもいい?」
岩本「ん」
差し出された左手に自身の右手を重ねて指を絡める。微かな温もりに胸をときめかせる。今日だって、アフレコ上手だったし、かっこいいし、笑ってる顔は可愛いし、好きが募って溢れ出しそうだった。
駐車場に車を停めて、名残惜しく指を離す。エレベーターに乗ってまた指を絡めれば「何?」と呟かれた。
「……今日、かっこよかったよ」
岩本「ふーん」
「拗ねてる?」
岩本「拗ねてないって」
「佐久間さんと話してたから?」
図星。というかそれしかないだろうから。好きだよ、の気持ちを込めて手の甲に唇を押し当てる。そこじゃないって顔をして彼は私を部屋へと押し込んだ。同時に唇が重なる。噛み付くような荒々しいキスを静かに受け入れる。
「ん……っ」
岩本「……っ、は、茉白」
「なに、ひーくん」
岩本「嫉妬した」
「ふふ、知ってる」
岩本「佐久間とばっか喋りすぎ」
「ごめんね」
岩本「許さない」
そう言ってまたキスをした。言葉を奪って、呼吸を奪って……。私の想いは今も昔も、これからもひーくんだけのものなのに、彼はこれ以上私から何を奪っていくんだろう。なんだって捧げる。そのくらい、彼が愛おしいのに、この想いは何分の1しか彼に届かない。
「どうしたら許してくれる?」
岩本「……キスして。風呂一緒に入って。一緒に寝て。俺から離れないで。他の男のこと見ないで。話さないで。俺だけの茉白でいて」
「ひーくんだけだよ」
ちゅっ、と触れるだけのキスをしたら「足りない」って唇を奪われる。彼の下唇を自身の唇で食み、ちゅうと吸い付く。ひーくんの頬を撫でて、ちゅっ、ちゅうっ、って啄むキスをして、また深く口付ける。
「恥ずかしいけどお風呂だって一緒に入るし、寝るのも一緒。……ひーくんから離れることなんてないし、他の男の人も、眼中に無いよ。お仕事もあるから話さないってのはちょっと無理だけど、でもなるべく気をつけるね」
そしてまた彼に口付ける。
「ずっとずっと、ひーくんだけの私だよ」
ずっとずっと、ひーくんだけの私でいさせて。
これは小さな私のわがままで、約束。ぎゅうっと力強く抱きしめると、彼は簡単に私を抱きかかえて歩き出した。向かう先はお風呂場。
岩本「じゃあ、有言実行してもらおうかな」
とびきりの笑顔を向ける彼の首にぎゅっと腕をまわして頬を擦り寄せる。メイク、ついちゃうかもって思って顔を離せば、今度は彼の顔が近付いてきて唇が重なった。
やきもちを言い訳にその夜、彼は私にべったりとくっついていた。