同棲


ひーくんのデビューが決まった昨年の夏から、私たちの生活はそれまで以上にすれ違いが多くなった。なかなかお互いの家を行き来することも出来なくて、連絡はもっぱらLINE。

『今日茉白んち行ってもいい?』
『大丈夫! お仕事終わったら連絡するね』
『ん、了解。迎えに行こうか?』
『さすがにそれは申し訳ないから……!』
『俺が早く会いたいから。嫌じゃなかったら迎えに行かせて』
『じゃあ、お願いします!』

久しぶりに会えることに胸を躍らせてるのは私も同じ。早く会いたくてたまらない。きちんと予定通りに仕事を終えて、彼が待つ駐車場へと急ぐ。

岩本「お疲れ様」
「ありがとう。今日おやすみだった?」
岩本「うん」

ぎゅってしたくて、でも運転中だからそんなことはできなくて、もどかしく行き場を失った手を膝に置いた。

岩本「茉白」
「ん? ……ん、っ」

赤信号で車が止まる。名前を呼ばれて、彼の方を見れば、唇が触れて静かに重なった。

岩本「帰ったら言いたいことある」
「何?」
岩本「帰ってからね」

悪いことだったらどうしよう。……別れたいとか、そんな話だったら、どうしよう。考えるだけで落ち込んで、泣きそうな気持ちに蓋をする。


家に帰ってふたりで晩御飯を食べてお風呂に入って、あとはもう寝るだけって格好になってようやく彼は話をする気になったらしい。私を膝の上に乗せて「あのさ」と口を開いた。

「……ごめん、聞くの怖い」
岩本「え?」
「……嫌な、想像しちゃって、ごめん。ごめん……っ」

気持ちが荒ぶって、涙がこぼれそうになる。深く息を吐いて、吸って。そんなことを繰り返してると、とんとんと彼が背中を撫でてくれた。

岩本「何か勘違いしてるみたいだけど」
「……え?」
岩本「別れるとか、絶対に言わないからそれだけ安心して」

ぎゅうと私を抱きしめて、額に口付ける。じゃあ、何の話……? まだ不安げな私の髪を撫でて「一緒に住も」って、何事でもないように彼は呟いた。

「……え? え!?」
岩本「全然会えないから、せめて帰る家が一緒なら少しくらい、一緒にいれるんじゃないかなって思ったんだけど。……だめ?」

くしゃ、と笑うひーくんの首に腕をまわして顔を埋める。ダメなわけない。むしろ、そんな嬉しい言葉、言ってもらえるなんて思ってもいなくて、幸せすぎて苦しい。明日死ぬんじゃないかってくらい。

「私も、ひーくんと一緒に、住みたい」

ぽろぽろと零れる涙を彼が指の先で拭う。「泣かないの」って笑われて、頬を撫でられて、キスされて。多幸感と彼の愛に溺れてしまいそうだった。

岩本「……良かった」
「え?」
岩本「断られたらどうしようって思ってた」
「断ると思ってた?」
岩本「ほぼほぼないとは思ってたけど、それでもちょっとは……」

私の腰に腕をホールドさせて「でももう離さない」って彼は微笑んだ。「……離れてなんかあげないよ」って帰せば、くしゃくしゃの笑顔が雄のそれへと変わった。

岩本「愛してる、茉白」

そうこぼして、寝室へ連れていかれる。なだれるように寝転がってふたり、闇夜に溶け交わりあった。