見えない壁に苛まれて


オフの日は決まってある場所へと向かう。有難いことに最近忙しくなってなかなか行けなかったから、その間あの部屋がどうなっているかと心配になりつつ足早に駆けた。
インターホンを鳴らせば、少ししてドアが開く。

「あれ、涼太くん来てくれたの」

へらりと笑う彼女は「いつも通りです」と言いながら俺を部屋に招いてくれた。

宮舘「いつも通り、荒れてるね」
「んー……、でもまぁ、住めてるし……」
宮舘「適当に片付けておくよ。それと、昨日はご飯食べた?」
「あ、忘れてた」

くるる……と小さく彼女の腹の虫が鳴る。
でも先にこの部屋を掃除したい。「もう少し待てる?」と聞くと、彼女は子供みたいに何度も首を振って頷いた。そしてまた俺が来る前も向かっていたであろう作業机に戻っていった。
真剣に作品と向き合う姿は美しいと思うけれど、自分の体や生活をおざなりにするところが彼女の悪い癖だ。散らばったボツ原稿を拾い上げて紙ゴミコーナーへ放る。今どき何でもパソコンで出来てしまうのに彼女はあえて紙原稿を好む。……まあ、そのこだわりのせいで紙ゴミが部屋に散乱してるんだけど。

適当に掃除をして、ごみ捨てと買い出しをして、恐らく俺くらいしか使ってないんじゃないかと思うくらいに使用感のないキッチンで軽食を作る。あとでチンして食べれる作り置きのおかずも作っておこう。

宮舘「透華、出来たよ」
「ん? あ、はーい!」

集中してるところ悪いけど、煮詰まってるみたいだったし、とんとんと肩を叩いて彼女を呼ぶ。「いただきます」と手を合わせて食事を始める彼女を眺めていると、不意に目が合った。

「涼太くんのご飯って本当に美味しいよね」
宮舘「それはよかった」
「いつもありがとう!」
宮舘「どういたしまして。そういえばこの間、本屋で透華の本見たって阿部が言ってた」
「あ、もう並んでるんだ。えへへ、この間の本屋大賞に選んでもらったんだよ」

嬉しそうに話す透華。正直俺には透華の書いてる話は難しすぎていまいちよく分からないけれど、初めて読んだ時に感動したのだけは今でも覚えている。昔からの付き合いだし、いくつになってもあどけないままの彼女から、この沢山の語彙と物語が作られてるというのが凄く不思議だったから。

宮舘「俺も買おうかな」
「え? 涼太くん読むの? 寝ない?」
宮舘「寝ないよ。翔太じゃないんだから」
「お兄ちゃんなら秒で寝るよね」
宮舘「でもこの間のツアーで透華の本持ち歩いてたよ」
「え、そうなの?」
宮舘「透華があげたんじゃないの?」
「あげてない。……へぇ、意外だなぁ」

そう言いながらも少し嬉しそうな彼女が可愛らしくてつい顔が綻ぶ。

宮舘「ついてるよ」

ただ、口元についたご飯粒をとってあげても、何も気にしないで笑う姿には男として魅力に欠けてるのかなと心の隅でため息をついた。
小説内では沢山の人間の心の機微を描く彼女は俺の心ひとつ読んではくれない。幼馴染という壁はそう簡単には崩れそうにないようだ。