柔らかいすずらんの香り
次にみちゅを見かけたんは事務所ですのむびを撮ってたときのこと。みちゅはたぶん俺の事驚かせようとして後ろからそーっと近づいてきたんやけど、インカメで撮ってたから丸わかりで、すぐ振り返ってしまった。もしかしたら「だーれだ?」とかやってくれたかもしれんのに。
「わ! びっくりした」
向井「いや、それこっちのセリフ」
「あははっ、ドッキリ仕掛けようと思ったのに」
向井「甘いで。俺には目ぇ3つあるからな!」
「え!? ……あ! インカメにしてる! なんか撮ってました?」
向井「あ、バレた。すのむび撮ってたんよー」
回しっぱなしだった録画を停止してスマホを閉じる。何食わぬ顔で隣に座ったみちゅは「邪魔しました?」なんて言ってて、俺は全力で否定した。邪魔なわけないやん。今だってめっちゃドキドキしとんのに。
「写真とってもいいですかー?」
向井「え? お、おぉ、ええよ」
「やった」
ちょっと近づいただけでめっちゃ良い匂いがして、ほんまきゅんきゅんすんの。誰や、ちょろいとか思ったやつ。
向井「俺も撮ってええ?」
「はい!」
そう言って俺はカメラを構える。スマホじゃなくて一眼の方な。「そっちですか?」ってふにゃって笑いながらこっち見てくれて「可愛く撮ってください」なんて言ってた。いつ、どんなときだって、みちゅは可愛いやん。可愛くない時ないやん。でも、誰よりも俺が一番可愛く撮りたい。レンズ越しのみちゅはいつもより綺麗に見えて、なんだか違う人に思えた。
「めっちゃ撮ってません?」
向井「え、あ……」
「ふふ、じーこ先輩、本物のカメラマンさんみたい」
向井「え、ほんま?」
「はい!」
こんなん撮れたって見せたら、めっちゃ嬉しそうな顔して「この写真欲しいです!」とか「アー写もじーこ先輩に撮ってもらいたい」とか、嬉しいこと言ってくれた。
「私、じーこ先輩の写真好きです」
向井「えっ」
めっちゃ顔緩んでる。写真が好きって言われたんに、まるで自分が好きって言われたみたいな感じがして、なんかドキドキした。
「写真送ってもらってもいいですか?」
向井「お、おん。LINE変わってない?」
「変わってないです! じーこ先輩も変わってませんか?」
向井「変わってないはず。ちょっとなんか送って」
「はい!」
ぽんと送られてきたスタンプはうさぎがオレンジのハート持っとるやつで。こんなんにもきゅんてしてしまうんよ。なんなんこれ。可愛いな、ほんとに!
向井「あ、きたわ。そしたらここ送るから」
「はーい! ありがとうございます!」
そんなやりとりしとったら、キンプリのマネージャーがみちゅのこと迎えに来た。「じーこ先輩またね!」って手を振って離れてく彼女。上手く返せんくて、控えめに手だけ振った。少ししてLINEを見たら、みちゅのLINEアイコンが俺の写真になってて、初恋を覚えたばっかりの女子中学生みたいに身悶えした。