※転科前の5月辺りの話。
※ご都合主義。
私にはお兄ちゃんがいる。私のお兄ちゃんは家で仕事をしているんだけど、普通の人間には出来ないお仕事らしくて特別な仕事なのよってお母さんが言っていた。
「お兄ちゃんのお仕事が知りたいです」
「え?なになに?なまえが知りたいなら教えるよ。なまえなら本丸来れると思うし」
「ほんまる?」
「紹介してあげる」
と言って妹相手にウィンクするお兄ちゃんは、私にとことん甘いと思う。というか、お母さんはお兄ちゃんのお仕事は人には言えないお仕事なのよ、とも言ってたのに簡単に教えてくれるのか。少し心配になるんだけど。
「はーい、到着」
「お兄ちゃん、別に手を繋がなくても…、家だよ?」
久しぶりに訪れたお兄ちゃんの部屋は、お兄ちゃんが高校生の頃よりも綺麗に片付いていた。小型冷蔵庫とかあるし、和室なのに。キョロキョロ部屋を観察していると、お兄ちゃんがおもむろに押入れを開けて中を指差している。訝しみながらもお兄ちゃんの隣に並んで押入れの中を覗くと、中には何も入ってなくてただ襖が建てつけてあった。
「ここが俺の本丸の入り口」
「ナルニアですか?」
「どちらかと言うとドラえもんかな」
襖を開けて奥へ入っていくお兄ちゃんの後を追って押入れに入ると、広めな和室に繋がっていた。お兄ちゃんの部屋の隣は私の部屋のはずなのに、そこは私の部屋では無い別の部屋、というより別の見たことのない家だった。
「ここが俺の本丸!なまえならいつでも来ていいからな」
「なにか面白いアトラクションとかあるの?」
「特にない!うえに今は俺と俺の初期刀しかいない!」
「初期刀?」
お兄ちゃんはここで何の仕事をしているのかさっぱりわからない。初期刀ってなに、このご時世に刀鍛冶でも始めたのだろうか。でもお兄ちゃんが職人的な仕事を選ぶなんてとても以外だな。
「主、おかえりー。って、あれお客さん?」
「そして、こいつが俺の初期刀」
「あー、川の下の子です。加州清光。扱いにくいけど、性能はいい感じってね」
「えっと、みょうじなまえです。よろしくお願いします」
私が自己紹介すると二人ともギョッとした顔をして慌てて説明し始めた。彼が刀の付喪神で2205年の未来の政府から頼まれて、過去を変える奴と戦うためにここでお仕事してるらしい。そして、神様に真名を教えると神隠しにあってしまうから他の刀には教えちゃダメだよと。
「加州には俺の妹を神隠ししたらどうなるか後で言い聞かせておくから大丈夫だからな」
「主怒らせると怖いの知ってるからやらないし」
本丸案内してあげる、主はちゃんとサボってた分の書類終わらせなよ。とお兄ちゃんに釘を刺して私の背中を押して部屋から出る加州清光さん。お兄ちゃんの恨めしそうな視線を無視して、縁側に出ると日本庭園が広がっていた。
「すごいよね、俺も来たときびっくりした」
「…加州さんは私の事普通に受け入れてくれるんですね」
「清光でいいよ。だって主にそっくりな霊圧だったからね。妹ちゃんの方が霊力強いみたいだけど」
あの子屋は鍛刀小屋であっちは馬小屋。と指差した加州さんの爪が赤く綺麗に塗られていてそっちに目が行ってしまって、どっちが鍛刀小屋でどっちが馬小屋か聞いてなかった。けどまあ、どっちにも用が出来ることはないだろうから別にいいか。それから本丸の案内をしながらお兄ちゃんの仕事を教えてくれた加州さん。
「お兄ちゃん、ここでのお仕事慣れちゃったらもう私の事簡単に助けに来てくれないですね」
「……どうかな。主、妹ちゃんの事大好きだから」
「ううん、お兄ちゃんはきっとここのお仕事が好きになっちゃうよ」
だって喧嘩ぐらいしか長続きしないお兄ちゃんが、1ヶ月も続いてるお仕事だもん。現にお兄ちゃんは私の変化に気付いてない。ちょっとだけお兄ちゃんを取られたみたいで加州さんにヤキモチしちゃうけど。
「だけどね、私決めました!」
「何を?」
「私、先生に勧められてた『新設のプロデュース科への転科』の話お受けしようって決めた!今決めました!」
「ぷろでゅーすか?」
加州さんがお兄ちゃんの話をしてる時、お兄ちゃんも新しい事を頑張ってるんだなあって思った。不良として名を馳せたお兄ちゃんが主と呼ばれて慕われているのは嬉しかった。だから私もがんばってみようかな。アイドル科には友くんもいるから知り合いが一人もいない場所からのスタートってわけでもない。
「詳しい事は分からないけど上手くいくようにお呪い」
と言って私の手を取り、その手のひらに赤く飾られた指で花丸を描くとそれを握らせてから彼は微笑んだ。それがなんだかお兄ちゃんみたいで、私もつられて笑顔になった。
「ありがとうございます。みーくん!」
「…え、みーくん?」
「きよみつ、だからみーくん!可愛いでしょ?」
「ふふ、そうね。もっと可愛がっていいよ?」
それからお兄ちゃんのいる部屋に戻るまでに、加州さんにお兄ちゃんのことをたくさん教えてあげた。昔から頭が良くて私に勉強を教えてくれてたとか、最近まで不良をしていて喧嘩がものすごく強いとか、今年の誕生日に可愛いペンをくれたとか、だけどお兄ちゃんが買ってくれる服のセンスは無いとか、すごく無益な情報だったけど加州さんは嬉しそうに聞いてくれた。
「ただいまお兄ちゃん」
「案内してきたよ、主」
お兄ちゃんのいる部屋の襖を開けると、机に向かっているお兄ちゃんと来た時には無かった水羊羹が3つお盆に乗せられて畳の上に置かれていた。お兄ちゃんは私達が来たことに気づくと、筆を置いて羊羹を指差した。
「二人ともおかえり。母さんから菓子もらったぞ」
うわ、お母さんはお兄ちゃんのお仕事を私に教えたくなさそうだったから、私がここにいるのすごく怒ってそうだな。と考えてる私の表情を読み取ったお兄ちゃんは大丈夫と笑っていた。
「俺が書類と戦ってるとき加州が一人だと寂しがるからさ、たまに来て相手してやってよ。母さんにもそう言ってあるし」
「ああ言ってるけど主が寂しがってるんだよ」
私のお兄ちゃんは私にとても甘い。私はそんなお兄ちゃんが大好きだ。でもそんなこと言うとお兄ちゃん調子に乗っちゃうから言わないけどね。
お兄ちゃんの本丸
「仕方ないからたまにみーくんに会いにくるね!」
「みーくん!!?なにそれ!!おい加州!!!」
「待ってるよ、なまえちゃん」
「〜〜〜っ加州!!!」
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