恋人は魔法使い

※視点コロコロ。


その日はなまえとスオーがクラスの掃除当番だとかでレッスンに遅れていた。それに関して別に問題は無いのだが、おれは衝撃的な事実に気付いてしまったのだ。


「もしかして、もしかしてなんだけどさ」
「?何かありました?」
「なあに、そんな深刻そうな顔をして。王様がそんな顔するなんて珍しいんじゃない?」


スタジオに集まっていたあんずとナルがおれの呟きに反応してくれたが、セナはどうでもよさそうにスマホを弄っていた。リッツに至っては寝ているし。セナが反応してくれないのは別に今に始まったことでは無いし、リッツだっていつも寝ている。それよりも正直今はそれどころでは無い。


「もしかして、おれよりスオーの方がなまえと一緒にいる時間、多い?」


なまえと同じクラスのスオーに比べて、クラスどころか学年も違うおれは、レッスンの時とかお昼に会うくらいで実はなまえと一緒に過ごしてる時間ってすごく短いのかもしれない。


「そうねぇ、司ちゃんと比べると確かに短いわね。今も二人は一緒にお掃除してるわけだし」
「そういえばなまえちゃん、Knightsのプロデュースの時はいつも朱桜君と一緒にスタジオ来てますよね」
「てゆーか、今更じゃないの?」


三人各々肯定を示して、おれはその事実に膝を着く。今までなんだかんだ一緒にいる気がしてきたが、それって放課後のホンの少しの時間だけで、だいたい半日を一緒に過ごしているスオーに比べてしまうとホンの些細な時間だったのか。授業の描写が少ない上に、レッスンの描写が多かったから今まで気づかなかった。


「すみません、遅れました!」
「なまえさんいつも言ってますけど、私の手を引っ張って走るのはやめてください!」
「あらあら、噂をすればね。おかえりなさい」


正直今までは、スオーを羨ましいと思った事は一度もない。だけど、今は、気付いてしまった今は、スオーを羨ましいと思う。いや、羨ましいというよりも妬ましいのかもしれない。嫉妬っていうやつだろう。


「司くん、足遅いからみょうじが引っ張った方が早く着くじゃないですか」
「なまえさんが速すぎるんです!」


仲睦まじいとは言えないケンカのようなやり取りでもそう見えてきたり、今までもそうだったのに呼び方が気になったり、一つ不満を見つけると湧き上がるように不満が見つかってしまう。


「月永先輩、具合でも悪いんですか?」
「眉間にシワが寄ってますね、どうしたんですか?」
「あー、放っておいていいから!あんたら二人で話しかけるとさらに面倒な事になるでしょ!」


せめてレッスンの間だけでも、二人を一緒にさせるわけにはいかない。離れさせなければならない。そんな使命感がおれの中で生まれた。




最近、月永先輩がおかしい。放課後にレッスンがあるとき教室まで迎えに来たかと思うと、司君と私の間を陣取って、スタジオに着いてレッスンが始まっても司君を見つめ続けている。これは、私に飽きて司君に乗り換えようとしているのかもしれない。


「凛月先輩……みょうじは女としての魅力が司君よりも劣っているのでしょうか…」
「あー………もしかして、王様がスーちゃんとよく一緒にいる関係?」
「凛月先輩から見てもそう見えますよね!」


廊下でばったり会った凛月先輩にそのまま相談してみるが、凛月先輩からもそう見えてるのか。私はなにか嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。月永先輩が司君の事を好きなら、私はそれを応援した方がいいのだろうか。女としてとても複雑な気持ちになるけども。


「…ねぇ、なまえがどう勘違いしてるかわからないけどさ、王様はなまえの事うざいくらい好きだと思うんだけど?」


ちゃんと王様と話した方がいいよ。と凛月先輩はぽんぽんと私の頭を撫でた。話した方がいいと言われても、もし司君が好きだから別れて欲しいとか言われたらどうしよう。


「相談のってあげたんだからさ、血頂戴?」
「ええー!聞いてないです!」
「俺、無料相談窓口じゃないんだよね。報酬はもらう主義だから」
「うー、やっぱりお姉ちゃんに相談したらよかった…」


鳴上先輩だったら、血をくれだなんて言わないし、恋愛の相談ならお手の物だったかもしれない。明らかに人選ミスだ。


「大丈夫、痛くしないし少しだけだから」
「みょうじ注射嫌いだから嫌です!きゃーー!あんずせんぱいー!!」
「なんでそこであんずに助けを求めるんだ!!!」


廊下の角から月永先輩が大声をあげながらこっちに向かって歩いて来る。その顔は怒っているように見えるが、なんで月永先輩が怒っているんだろう。凛月先輩もうわぁ…、と声を漏らしている。


「リッツもリッツだけどなまえもなまえだ!!」
「あー、うん。ごめんね?これちゃんと返すからそんなカリカリしないでよ。それよりちゃんと話したほうがいいよ。頭良いとは言えないみたいだから、なまえ」
「うう、人を物みたいに扱ってぇ…凛月先輩のばかぁ…」


私を月永先輩に向き合わせて凛月先輩はどっかへ行ってしまって、私の目の前には明らかに怒っている月永先輩がいるため私は逃げる事は出来なさそうだ。でも、私怒られるような事してないし、凛月先輩も月永先輩とお話した方がいいって言ってたし。


「なあ…」
「ふぁ、はい!?」
「…お前、もしかしておれのこと嫌い?」
「……な、なんでそんな事聞くんですか?」


もしかして、月永先輩は私の事本当に嫌いになってしまったんだろうか。これから切り出される話は、別れ話だったりするんだろうか。もしそうだったらやだな…。私、先輩の事まだ好きなのに…。





なまえは俯いたままで、その表情を伺うことは出来ない。でも俯くなまえを見てああ、泣かせてしまったと瞬時に思った。なまえの泣く姿を何度も見たわけではない、むしろ泣き顔なんて一回しか見たことが無いけど、それでもなまえが泣いているとわかってしまった。


「……なまえ」
「みょうじじゃなくて月永先輩がみょうじの事嫌いなんでしょ?みょうじよりも司くんが好きなんでしょ!?」
「……は」


顔をあげたなまえの目からは予想通りに涙がポロポロ、ポロポロ落ちていて胸を引き裂かれるような罪悪感を抱いてしまいそうになるが、そのまえに、なまえは今なんて言った?スオーがどうとか、聞こえたけど何?この子はどう勘違いしてるわけ?


「…いや、スオーは関係ないだろ?なんでスオーが出てくるわけ?」
「なんでって…月永先輩が司くんのこと好きだから……みょうじフラれるのでは…?」
「おれ、スオーが好きなんて言ったっけ?そもそもあいつ男じゃん。ナルじゃないからおれそういう趣味はないんだけど」


ポロポロ落ちていた涙が次第にとまって、キョトンという表現がぴったりな表情になった。その表情から察するに、おれがスオーの事をそういう意味で好きなんだと本気で思ってたのか、こいつ。そもそも、なまえがスオーと一緒にいる時間が多いのが原因だっていうのに、気づいてないんだろうな。


「月永先輩は…みょうじの事、まだ好きでいてくれてるんですか…?愛想尽かしちゃったりとか、してないですか…?」


こいつにはもっと分かりやすい言い方をしないと伝わらない。リッツも言ってたじゃないか、頭が良いとは言えないと。だからこそ、何をするかわからない、何を考えてるのかわからない面白いやつ。ほんとに、


「大好きだ、愛してる」


ほら、と腕を広げると止まったはずの涙をまたポロポロ零しながら駆け寄って(といっても1、2歩程度だけど)おれの腕の中に収まった。


「魔法が…」
「…ん?」
「もう月永先輩に魔法が効かなくなったのかと思いました…、」
「おれはずっとなまえの魔法にかかったままだよ」


あんな嫉妬もなまえの一言で綺麗さっぱり消え失せる。


「……………みょうじの魔法は、レオ先輩だけに効力があればいいんです」




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