「おっそい。こんな時間まで何してたんだよ。待ちくたびれちゃっただろ」
待ち合わせをしていたわけでは無いのだから無理して待っていなくてもよかったのに、月永先輩はそこにいた。さも当然のように私を待っていた。手際がいいとはお世辞にも言えない私が、こんな時間になってから帰るのは別に珍しいことでは無いし、むしろ早く帰れる方が珍しいと言えるかもしれない。
「ていうか、月永先輩今日いたんですね」
「教室着く前に霊感が降りて来て作曲してたから出席はしてないけどな!」
そんなんじゃ卒業出来ないんじゃないだろうか、とはさすがに言えないくて、そういえばと話題をすり替えることにした。それに月永先輩は特に気にするでも無く私の話を聞いてくれていた。
「あんず先輩が月永先輩を見つけたら言っといて欲しいって言われたので、もしかしたら聞いてるかもしれないですけど」
「今日はあんずに会って無いから多分聞いて無いな。いや、待って妄想して内容考えるから少し時間をくれ!」
答えを言ったら機嫌悪くなるんだろうな。と思い60秒からカウントダウンを始める。この方法は割りかし有効的だ。たまに時間が短いって言われるけど、それ以外のクレームはまだ無い。
「いち、ぜろ、…答え言いますよ」
「あー、仕方ないな。霊感が足りなかったなぁ」
「えっと、なんか月永先輩の曲が表彰されるから明日詳しく話すのであんず先輩に会ってくださいって」
めんどくさいな、と言いつつも月永先輩はどこか嬉しそうに笑っていた。私もその話しを聞いた時は、すごく嬉しい気持ちになったから本人はもっと嬉しいに違いない。
「月永先輩の曲はとても素敵なので、こうして賞を取って皆に聞いてもらえるのがなんだかとても嬉しいです」
でも、少しだけ寂しいと思ってしまうのは私だけだろうか。月永先輩が遠くに行ってしまうような、元々遠くにいたんだけど更に遠くに行ってしまうような、そんな感覚。
「賞とか別に取っても取れなくてもどっちでもいいんだ。でもおれが賞を受賞することでKnightsの知名度も上がるだろ、そうすれば更にKnightsの仕事が増える」
先輩はちゃんと色んな事を考えているんだ。普段はレッスンも学院にもなかなか来ないのに、自分が居なくなった後のKnightsの事も考えていて、この人はやっぱり『王様』なんだ。やっぱり寂しいな…。
「受賞式、一緒に来てくれよ。おれのプロデューサーとして」
急に立ち止まり、私の腕を掴み引き寄せられる。突然の事にフラついて引かれるままに月永先輩と向き合う形になる。そんな真剣な顔で言われると、まるで告白されてるみたいじゃないか。と内心ドキドキしていると、月永先輩は私が巻いていたマフラーを外していきその行動に更にわけわからなくなった私の思考回路はぐちゃぐちゃになってしまう。
「マフラー巻くの下手くそだな、お前」
「し、仕方ないじゃないですか…!」
「ははははっ!器用なのに変な所で不器用なんだな、面白いやつ!」
マフラーを巻き直してくれる月永先輩は手慣れていて、妹さんのマフラーも巻いてあげてるのかなと思考を逸らす。でもそれもすぐに正される。
「それで、一緒に来てくれるだろ?」
「みょうじ、この1年がとても楽しかったんです。でも、この1年がずっと続いてくれる事なんて無いじゃないですか」
4月になったらまた私は1年生で、月永先輩も3年生で、同じ1年が繰り返してくれたならよかったのに。
「月永先輩と一緒にいると、卒業してしまった後寂しくなるから、一緒にいたく無いんです。……すごくわがままな事言ってますね」
こんな事言っても月永先輩を困らせるだけだし、捉え方によっては告白に聞こえてしまうかもしれない。早くいつものような明るい話題に変えなくては。
「な、なんちゃって!えへへ、じ冗談で…」
「別に卒業しても会えなくなるわけじゃないんだから、寂しくなったらいつでも会いに行ってやるよ。なまえといると霊感が湧くしな!」
先輩はずるい。人の気も知らないで、そんな事言うんだから。でもやっぱり嬉しいから、その言葉に甘えてしまってもいいだろうか。いつか、堂々と月永先輩の隣に立てるような、そんな日が来るといいな。
それを愛だと思ったんだ
(ここまで言って何故伝わらないんだ)
(何か言いました?)
(いや、なにも…)
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